これは、私が小学校6年生の時の話。
中学受験直前、とある土曜日の20時頃。
その日は初雪だった。
「雪降ってるよ!!」
私は、自習室で勉強している瑛斗くんに、興奮気味に言った。
その日の自習室は、瑛斗くんと二人きりだった。
瑛斗くんは私の声を聞いた途端、弾かれたように顔を上げて、がたっと立ち上がった。
その反応がなんというか、子どもみたいで面白くて、堪えきれずに笑ってしまう。
その時……
「…え!?」
「行くよ」
彼は、私の手を掴んで走り出した。
「待って!!なんで私…」
「雪、見たい。」
いや、会話成り立ってないから!!
私を連れて行く意味はあるのか…
っていうか、異性の手をなんのためらいもなく掴むとか…
そう思ったけれど、その純粋に光った顔を見るとそんなことが言えるわけもなく、私は、瑛斗くんに引かれるまま階段を降りていく。
冷え切った階段で、私たちの足跡だけが響いた。



