ね、比江島くん。
「なら……行く前に、ちゃんと凛さんの顔が見たいです」
ずっと背中を向けたまま話していた私の背中をちょこっと、比江島くんはつかむ。
帰って来たら、すごいことになってるかもしれないものね。
「イヤ」
「なんでですか」
だって比江島くん、泣きそうな顔してると思うから。
気合い入れて行かなきゃいけないのに、そんな顔見ちゃったら、気持ちうつっちゃうじゃない。
「そのかわり……晩御飯、一緒に食べよ。それまで戻るよう努力するから」
ドアノブに手をかけると、すんなり比江島くんがつかんでいた手が離れる。
「凛さん……」
ほら、悲しそうな声。
「掃除でもしてくれてたら助かるな。今日は綺麗な部屋で寝たいから」
「……わかり、ました」
「うん。それじゃ、行ってくる」
結局、顔は見ずに部屋を出た。
1階にいる喜八さんと乙女子さんに、
いつも通りの"いってきます"を告げ、寮の外へ。
一度足をとめ、ポケットからヨイヤミの住所が書かれた紙を再度確認して、またしまった。
結んだ髪をきつくしめ直す。
「待ってろ、ヨイヤミ──」



