「そんなことありました?」
「たい焼き」
「たい焼き?」
「……ほら」
視線を地面の方へ向ければ、チョコクリームが出ているたい焼きが落ちていて……
比江島くんも、私のたい焼きを見つめた。
「買ってくれたのに、ごめんなさい」
「そんなっ、凛さんが謝ることなんて全然ない!気にしないでください。たい焼きならまた買えばいいんですから」
「……うん。それでね、たい焼きのことを話したらもうひとつ気になることがあって」
「今度は、なんでしょう……」
「比江島くんのたい焼きはどこに行ったの?」
「……へ?」
一度私から手を離し、比江島くんは右手、左手、を交互に見た。
「……あれ?」
まばたきをくり返す比江島くんとたい焼き屋の方へ戻れば、電信柱の後ろに落ちていた。
「これも私のせいだね、押したから。ほんとごめん」
「いいんですよ。また今度、一緒に食べましょ」
ふわっと、やわらかい笑みを浮かべる比江島くん。だけど……
「って怪我してるじゃないですか!!」
私の片手を見て、顔色を変えた。
だから学ランで隠してたのに。
「こんなん怪我のうちに入らないでしょ。大怪我じゃないんだし。……まぁ、木刺さったから抜かないとだけど」
「お、俺がやります!はやく帰りましょ!」



