天使の休息

 そうして迎えた体育祭は晴天に恵まれ、第一種目の
徒競走から盛り上がりを見せていた。第二種目の綱引きは全学年、その次の学年種目のダンスを無事に終えた華は、実行委員の誘導係に駆り出された。それが終わると玉入れに出場。あれこれと引き受け過ぎたことを後悔し始めていた。
 クラステントに戻った華は椅子に腰掛け、リュックを抱えて顔を埋めた。次は八百メートルリレーが控えていた。
 
「華、保健室で休んでこいよ」

 圭吾のその声に、クラスメイトがざわついた。

「華、体調悪いの? 保健室行く?」

 素早く駆け寄った愛梨が尋ねる。

「急に胃がキリキリしてきて」

「じゃあとりあえず保健室行こう。薬は持ってる?」

「うん」

 愛梨に肩を抱かれ、華はグラウンドを後にした。

「緊張するといつもこうなの」

 校舎に入り廊下を歩きながら、華は自身の長年の悩みを吐露した。

「そう。華は真面目だからね。だけど、わかってくれてる奴がそばにいるからいいじゃん。誰よりも早く華の体調の変化に気付いたもんね」

「……うん」

「じゃあ体調が良くなったら戻っておいで。もし戻らなかったら迎えにくるから」

 愛梨は保健室の前でそう言うと、グラウンドに戻っていった。
 胃痛はいつものことで、薬を飲めば治まるとわかっていたが、引き受けた競技に出られないことに罪悪感を覚え、華は負のループに陥っていた。結局午後からの競技にも出ることができず、保健室のベッドの上で、盛り上がる声援や実況アナウンスを聞いていた。
 眠っているつもりはなかったが、時計を見ると一時間以上が過ぎていた。胃痛が治まり眠ってしまったようだ。最終種目のアナウンスが耳に入り、華は保健室を出てグラウンドに向かった。

「華、もう大丈夫?」

 偶然にも前から歩いて来た愛梨が心配そうな表情で駆け寄る。

「ちょうど今から華を迎えに行こうと思ってたところなの」

「うん、もう大丈夫。心配かけてごめんね」

 恥ずかしさと情けない気持ちで苦笑する華に安堵の表情を向ける愛梨が、思い出したように目を見張った。

「圭吾が華の代わりに八百メートルリレーとムカデ競走と障害物リレーに出てたよ」

「えっ」

「誰が華の代わりに出るかって話してたら、圭吾が『俺が全部出る』って……さすがだね」

 不意に強い力で背中を押された気がした。愛梨の眼力で、遂に催眠術にかかったのかもしれない。

「圭吾、クラステントにいた?」

 愛梨に尋ねる。

「ああ、だいぶ前に障害物リレーのネットかなんか片付けに用具室行くって言ってたけど、その後は見てないかも」

 実行委員の片付けだ。自分が圭吾を道連れにしておきながら、結局圭吾一人に任せっきりになってしまった。

「探してくる!」

 そう言った時には走り出していた。