天使の休息

 新学期が始まり、一ヶ月後には高校生活での一大イベントといえる体育祭を控えていたが、実行委員が決まらないまま初日のホームルームが終わりに近付いていた。華はその重苦しい空気に耐えきれず、思わず手を挙げた。

「お前、何で手挙げんだよ!」

 ホームルームが終わり食堂に向かう華を追ってきたのは、鬼の形相をした圭吾だった。

「圭吾もやるんでしょ?」

「いや、違うだろ! あのままだとお前一人でやることになりそうだったから、俺もやるって言ったんだよ」

「だって、あの調子じゃ一生決まんなかったよ」

「だからってお前がやる必要もねぇだろ! お前はそうやっていつも……」

 突然圭吾の怒りの感情が減退したかと思えば、溜め息混じりに呟いた。

「もういいけど」

 圭吾がそう口にすることはわかっていた。そんな圭吾に寄り掛かって今まで過ごしてきた気がする。
 翌日からは実行委員の華と圭吾が中心となって、学級旗のデザインや競技に出る選手決めが行われたが、予想していた通り話し合いは難航した。そうしてまた、どうしても決まらなかった競技を華が引き受けることになった。
 ちらりと隣の圭吾に目をやると、怒りを通り越したのか呆れた表情を浮かべていた。

「お前、マジ知らねぇからな!」

 とうとう圭吾に見放されたかもしれない。


 体育祭三日前の放課後の教室には、数人のクラスメイトに紛れて圭吾の姿もあった。学級旗の完成は間近だった。結局最後まで付き合ってくれるのは圭吾なのかもしれない。

「華、そろそろ帰るぞ」

「うん、そうだね」

 今日は六時からバイトが入っている。もちろん圭吾と一緒だ。充実した高校生活が送れているように思うが、圭吾はどうだろうかと考える。
 “あの時、別の高校を選んでおけば良かった”と後悔していないだろうか。

「おい、華、早くしろって! 置いてくぞ!」

 圭吾の怒鳴り声にも、華は動じない。置いていかれたことなど一度もないのだから。

 学級旗は翌日に無事完成した。
 華はその日のバイト終わりに圭吾と二人でお疲れ会をした。