「華ちゃんの友達なんだって?」
カウンターの湯気の向こう側から店主が尋ねた。
「え? 何の話ですか?」
「あれ、聞いてないの? 今日から来るバイトの子だよ」
店主が不思議そうに首を傾げた。
「聞いてないですけどねぇ……何て名前ですか?」
「えっと、確か……」
夏休み前から始めたラーメン屋のバイトは、アットホームな店主と昼間の元気なパート主婦、夜は数人の学生アルバイトでシフトを組んで回していたが、夜の人手不足を補うために募集をかけていることは聞いていた。
「いらっしゃいませー」
来客チャイムの音で即座に体が反応し、華は明るい声と笑顔を向けた。
「おはようございます。今日から宜しくお願いします」
「うわぁっ、圭吾!!」
思わず大きな声を上げた華は、店内にいた数人の客からの視線を一斉に浴びた。
「ほら、やっぱり華ちゃんの友達だった」
店主がにこやかに笑う。
「圭吾君、だったね? 従業員は裏の勝手口から入ってきてね。あと、俺のことは大将って呼んで」
「あ、はい。よろしくお願いします、大将!」
「合格!」
大将が満面の笑みを浮かべて、両手で大きく丸を作った。
「新しいバイトの子って圭吾のことだったんだ。びっくりしたじゃん」
「このご時世、夜道の一人歩きは心配だっておばちゃんが言ってたし」
圭吾が饒舌に喋りだした。
「はあ? それが理由?」
「いや、それは後付け。ちょうど俺もバイト探してたとこだったし」
母は何故か圭吾に絶大な信頼を寄せていて、圭吾はすでに彼女を見方につけていた。
「うちの店は、友達同士の応募も歓迎だし、確かに華ちゃんを夜遅くに一人で帰らせるのはこっちとしても心配だったから、家も隣だっていう彼といつもペアで入ってもらえばこっちとしても安心して働いてもらえて助かるってもんだよ」
どうやら大将まで見方につけたようだ。
自転車とはいえ、夜道の走行は確かに警戒する。母からは気を付けるようにと、耳にタコが出来るほど言われていた。無駄に図体がデカイ圭吾が横にいるだけで、防犯対策になるだろう。
そんなことをぼんやり考えていると、大将から受け取ったTシャツと腰当てエプロンに着替えた圭吾が視界に飛び込んできた。
「よろしく」
「ま、まあ私も始めてまだ一ヶ月だけどね」
動揺したのは、様になり過ぎている圭吾のエプロン姿につい見とれてしまっていたからだ。
家も隣で学校もクラスも同じ。それに加えてバイト先まで同じなんて――
それでもこれを『幸運』と呼ぶには今一物足りない気はしたが、災いから逃れ、ちまちまとした幸いが重なるようになったのはやはり守護霊のお陰なのかもしれない。
とはいえ、ついているのは恋愛に疎い守護霊なのだろう。肝心なところでは何の導きもしてはくれない。
カウンターの湯気の向こう側から店主が尋ねた。
「え? 何の話ですか?」
「あれ、聞いてないの? 今日から来るバイトの子だよ」
店主が不思議そうに首を傾げた。
「聞いてないですけどねぇ……何て名前ですか?」
「えっと、確か……」
夏休み前から始めたラーメン屋のバイトは、アットホームな店主と昼間の元気なパート主婦、夜は数人の学生アルバイトでシフトを組んで回していたが、夜の人手不足を補うために募集をかけていることは聞いていた。
「いらっしゃいませー」
来客チャイムの音で即座に体が反応し、華は明るい声と笑顔を向けた。
「おはようございます。今日から宜しくお願いします」
「うわぁっ、圭吾!!」
思わず大きな声を上げた華は、店内にいた数人の客からの視線を一斉に浴びた。
「ほら、やっぱり華ちゃんの友達だった」
店主がにこやかに笑う。
「圭吾君、だったね? 従業員は裏の勝手口から入ってきてね。あと、俺のことは大将って呼んで」
「あ、はい。よろしくお願いします、大将!」
「合格!」
大将が満面の笑みを浮かべて、両手で大きく丸を作った。
「新しいバイトの子って圭吾のことだったんだ。びっくりしたじゃん」
「このご時世、夜道の一人歩きは心配だっておばちゃんが言ってたし」
圭吾が饒舌に喋りだした。
「はあ? それが理由?」
「いや、それは後付け。ちょうど俺もバイト探してたとこだったし」
母は何故か圭吾に絶大な信頼を寄せていて、圭吾はすでに彼女を見方につけていた。
「うちの店は、友達同士の応募も歓迎だし、確かに華ちゃんを夜遅くに一人で帰らせるのはこっちとしても心配だったから、家も隣だっていう彼といつもペアで入ってもらえばこっちとしても安心して働いてもらえて助かるってもんだよ」
どうやら大将まで見方につけたようだ。
自転車とはいえ、夜道の走行は確かに警戒する。母からは気を付けるようにと、耳にタコが出来るほど言われていた。無駄に図体がデカイ圭吾が横にいるだけで、防犯対策になるだろう。
そんなことをぼんやり考えていると、大将から受け取ったTシャツと腰当てエプロンに着替えた圭吾が視界に飛び込んできた。
「よろしく」
「ま、まあ私も始めてまだ一ヶ月だけどね」
動揺したのは、様になり過ぎている圭吾のエプロン姿につい見とれてしまっていたからだ。
家も隣で学校もクラスも同じ。それに加えてバイト先まで同じなんて――
それでもこれを『幸運』と呼ぶには今一物足りない気はしたが、災いから逃れ、ちまちまとした幸いが重なるようになったのはやはり守護霊のお陰なのかもしれない。
とはいえ、ついているのは恋愛に疎い守護霊なのだろう。肝心なところでは何の導きもしてはくれない。



