イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。


 彼の大きな声が、耳に入ってきた。声のする方に視線を向けると、先ほど別れた彼の姿が見える。けれど、佐々木先輩に乱暴に胸ぐらを掴み起こされ、廊下に兼ねているキッチンの収納扉が強引に開く。扉の内側に仕舞ってある包丁が抜かれようとしていたけれど……


「確保っ!!」


 私から離され、包丁を握る手を掴み、床に押さえつけられいた。そして、佐々木先輩の手首に手錠がかけられる。そこに至るまでが早すぎて、私はこの状況に理解出来たのは他の人達が玄関から入ってくる頃だった。


「瑠奈っ!」

「あ……」


 警察に佐々木先輩を渡した湊さんは、私に駆け寄り抱きしめた。それまで生きた心地がしなかったのに、ようやく息が出来たように感じた。


「悪い、遅くなった。ごめん……ごめんな」

「う……」


 言葉が出てこない。その代わり、無意識ではあったけれど、抱きしめてくる彼に手を回し、強く抱きしめ返した。

 先ほどまで目元に溜まっていた涙が、一気に流れ出る。湊さんが謝るようなことは全くないはずなのに、悪いのは私のはずなのに。でも、それを訂正する言葉は出てこない。その代わり……


「湊、さん……」

「あぁ、瑠奈」


 何度も何度も、彼の名前が口から出てきた。彼がここにいる事を、確認するかのように。

 怖かった。

 豹変した、自分が知っているはずの人の姿を見て。私に近づいてきて、触れてくることが怖かった。

 会いたかった。

 さっきまで、自分を安心させてくれていた、私を助けてくれた人に。

 もう、離したくない。

 ……言わなきゃ、ダメだ。

 そう思うと、回す手に力が入った。


「……湊さん」

「ん?」

「……大好き」

「っ!?」

「ずっと、一緒に……いてください……」