イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。


「お前の家は、あいつの家でもある。今回の件で、あいつはまたお前を利用する可能性が高くなった。なら、今のうちに策を講じた方がいい」


 策を、講じる……?


「私達の家庭に加わる事に思う事はいくつもあるだろう。それは私も理解している。だが、後悔はしないでほしい」

「……あの、何言ってるんです?」


 つい、口が滑ってしまった。理解してる? それ、本当に分かってるの?


「私の好きな食べ物、昔から変わりませんけど、知ってます?」

「……」


 彼は、口をつぐんだ。そうでしょうね、知らないんだから。

 この人はいつもそう。仕事、仕事、仕事。そればっかりだった。入学式と卒業式には来てくれた。けれど、いつも仕事ばかりだった。私の事は、見ているようで見ていなかった。それは小さい頃から気付いていた。

 だから、お母さんが日に日にイライラしていた事にも、気付いてた。


「今更父親面するつもりはない、って言ってますけど、そもそも父親じゃなかったでしょ。戸籍上は父親であっても」

「……」

「私には私の生活がある、貴方には貴方の家庭がある。なら、それでいいでしょ。もう私達は関係ないんだから」


 もっと穏便に、済ませるつもりだった。こんな事言うつもりもなかった。

 けれど、口はいう事を聞かない。


「じゃ、帰ります」

「瑠奈、待ちなさい」


 そんな制止の言葉をかけられるけれど、私は聞く耳を持たなかった。立ち上がり、そして視線を向けることなく、半ば逃げるようにして、カフェを出た。

 もう、顔も見たくなかった。逃げたかった。それはどうして? ……もっと、余計な事を言ってしまいそうになったから。

 そんな時だった。私のスマホが、鳴った。そして、画面に映し出された名前。


「あ、はは……やっぱり、敵わないなぁ……湊さん」


 今電話していいか、だなんて……ダメに決まってる。きっと、余計なことまで言ってしまいそうだし……色々と、バレてしまいそうだ。もう私の家族が最悪だという事はバレてしまっているから……これ以上は、知られたくない。

 だから、アルバイト中です、としかメッセージを送れなかった。

 ……まさか、近くにいないよね? それは、勘弁してほしい。本当に。