私はさっき、何を言われたのだろうか。
「垢抜けた? とにかく、驚いた。子供だったくせに、ちゃんとした女性になっていたから。だから、あそこで終わりにしたくなかった」
だから、あの提案をしたという事か。あの時は、この歳で金欠の女性に同情したと言っていたような気がするけれど、それは建前だったという事?
まぁ、あの頃も貧乏だったから、今でも貧乏なんじゃないかと予測は出来た。だから、あんな金額を出してきた。……というか、エリート警視って年収どれくらいなんだろう。結構稼いでるだろうね。あんな金額出してくるのだから。
「ったく、やってくれたな。おかげで引き留めたくて苦労したんだぞ」
「……」
「それなのに俺の事は忘れてるわ電話にも出ないわで腹が立ったんだからな。どうしてくれるんだ」
「……私のせい、ですか」
「決まってるだろ。責任取れ」
これは、言いがかりでは? そう思っていたら、また頬を親指で撫でてくる。驚いて顔が硬直したけれど……向けてくる表情に、視線が釘付けになってしまった。優しい表情で、微笑んでくる。
「本物に、なってくれるか」
「……貧乏、ですけど」
「国家公務員の給料舐めんな」
……でしょうね。
これは、告白されているという事で合っているだろうか。けれど、もしそうだったとしたら……と、期待してしまっている。嬉しく、思ってしまってる。
さっき、ストーカーに遭い110番ではなく彼に電話をしてしまった。ずっと電話に出なかったくせに、だ。今考えてみると……あんなに恐怖を感じていたのに、彼に会えて、顔を見て安心してしまった。忙しい人だと分かっているのに、呼びつけてしまったのに。
それに、さっきだってナイフを向けられていたのに何事もなかったかのように取り押さえてしまった。こんなにカッコいい警察官なんて、他にいるだろうか。
「……強い警察官って、かっこいいですね」
「何だよ、急に。それって、俺の事を言ってるのか」
「……私、他によく知ってる警察官いません」
「そうか。最上級の誉め言葉だな」
私の前髪を避けられ、額に柔らかいものが触れる。こんな事をされるのは初めてで、どんな表情をするのが正解か分からず、頬を火照らせてしまう。
「今度は唇にしていいか」
「……」
一体どう答えていいのか分からない。とにかく、恥ずかしい。
「瑠奈の事が好きなんだ」
その言葉は、私の中で大きく響いた。



