イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。


 けれど、途中で止まってしまった。押しても動かない。さすが警察官……じゃなくて。けれど……いきなり振り向いたかと思ったら抱きしめられてしまった。


「何も聞かない」

「っ……」

「が、頭が沸騰して火傷する前に俺に頼れ」

「っ!?」


 つい、言葉を失った。

 そんな言葉、貰えるとは思わなかったから。頼れ、だなんて、言われるとは微塵も思わなかったから。

 こんな家族に呆れてしまうのではないだろうか、内心軽蔑してしまうのではないだろうか。そう、思っていたから。

 でも……これは、同情心? それとも、警察官として?


「電話ならすぐに出てやる。すぐに来てやる。俺が彼女のお前を利用したんだ、お前もさっきのように警察官の俺を利用していい」


 初めて会った時も、そう。私がお金に困っていたから、同情心から提案してくれたアルバイトだった。やっぱり、根っからの警察官で、心優しい方なんだ。

 けれど……それを言ってしまってもいいのか不安になるのだが。確かに、誘われた時に彼女がいるからという断り方が使い勝手がいいって言っていつでも使ってたらしいけれど……流石に知り合いの警察官に電話するぞ、とか言って使ってしまうのは……アウトでしょ。


「だから、無理に笑うな」


 その言葉と一緒に、抱きしめている腕に力が入った。

 ……やっぱり私、下手くそだな。いや、警察官でいらっしゃる湊さんが鋭すぎるのか。


「俺の前では、無理して気を遣わなくていい。いいな?」

「……はい」


 やっぱり、湊さんには敵わないなぁ……

 でも、これ以上はやめてほしい。勘違い、したくなってしまうから。


「よし、じゃあ荷物まとめろ」

「……へ?」


 に、荷物をまとめる……?

 私から離れた湊さんは、その意味がよく分かっていない私に対して部屋の中を見渡していた。いや、あまり見ないでほしい。……洗濯物、そのままだから。


「うちに来い」

「……あっ、いえいえいえいえ!! まっまたお邪魔するのはっ」

「別に気にしなくていい」


 いやいやいや、気にするってそこは!! もしかして、また母親来ちゃうと大変だから、って? それとも一人にしたら危なっかしいって?


「あ、あの、大丈夫ですから! 心配いらないですから!!」


 グイグイとまた背中を押すと足が動き、玄関に。仕方ないな、とでも言うようにため息をつかれてしまった。


「何かあったら絶対に言えよ、いいな?」

「……はい」


 その間は何だ、と言いたげではあったけれど、帰ってくれてよかった……


 そして次の日、通帳に多額のお金が振り込まれた。

 母に押し付けられた借金と、同額のお金が。