イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。


 事情聴取はもう遅い時間だからと明日に持ち越すこととなった。

 そして、私はというと……


「シートベルト、ちゃんとしたか」

「……子供じゃありません」

「自分は立派な大人だと言うのか。じゃあ、大人なら電話にもちゃんと出られると思うんだがな」

「うっ……」


 今度は私が、湊さんに連行されている。乗り慣れた車の助手席に押し込められ、今私の家に向かっている。

 気まずい事、この上ない。


「何故電話に出なかったんだ」

「……」

「俺の事は嫌いか?」

「あ、いえ、そういう事ではなく……」

「じゃあ何だ?」

「……」


 何となく、怒っていらっしゃるように聞こえる。

 一体何とお答えすればいいんだ。


「……いや、その、もうアルバイト期間は終わって、私はお役御免になりましたから……」

「アルバイトが終われば電話をすることすら許されないのか」

「……いや、その、矢野さんは警視ですから……」

「矢野さん?」

「……いや、だって、もうアルバイト終わってますし……」

「アルバイトアルバイト言うけど、それやめないか」

「えっ……」


 気が付けば、車は停まっていた。私の住むアパートの駐車場に着いたらしい。早く逃げようと思ったけれど、シートベルトの金具を刺す部分、パックルが大きな手で押さえられてしまっていた。目の前には、彼の顔がある。

 まるで、逃がさんぞとでも言いたげな顔だった。これは、逮捕された……?


「今まではアルバイトと雇用主の関係だった。だがようやくそれも終わった。なら、ただの知人だろ」

「……」


 まぁ、それもそうだ。ただの知人。


「だが、俺としてはただの知人、では満足いかない」

「……は?」

「矢野警視だなんて、他人行儀も甚だしすぎて腹が立つ」

「……湊さん、で、よろしかったでしょうか」

「よろしい」


 何故だか危機感を覚え、そう訂正させていただいた。まずは早く家に帰還したい。となると、早くシートベルトを外させてほしいのだが、一体どうしたらいいのだ。