「この際だから、はっきり言っておく。正直言って迷惑だ。まとわりつくのもやめろ。これ以上瑠奈に手を出すなら……――容赦はしない」
「っ……」
「本当は、この手は使いたくなかった。だが、お前がそこまでするなら、この件、矢野警視監に報告する」
「えっ……」
えっ、矢野警視監……?
湊さんと、同じ苗字……確か、親戚に警察官がいるって言ってたよね……?
警視監……ちょっと気になってこの前階級について調べたけど、警視監って警視長より階級が上だったっけ。
「な、なんで……? 私、間違ったこと、してないよね……? そ、それに! 矢野警視監だって乗り気だったじゃない!」
「あれは酒の席で早瀬警視長が話を出しただけの事。それに、俺達がその気なら、の話だっただろ。自分のいいように解釈するな。こっちが迷惑だ」
「そ、そんな事っ……」
「……あ゙?」
「っ!?」
は、話……? 一体どういう話……?
「そんな事ないって? お前ふざけてるのか?」
怒ってる。
出会って3ヶ月しか経ってないけれど、相当怒ってるって、分かる。こんな湊さん、見たことない。あの早瀬警視長の前でだって、こんな様子は出さなかった。
早瀬さんは、尻込みしている。警察学校からの付き合いらしいけれど、こんな湊さんをよく知ってるのかな……これは、ヤバいって。
さっきの話は、もしかして、湊さんの家での食事会で早瀬さんが言っていた話……? 結婚の話があるって。
「それにもし矢野警視監がそのつもりだったとしても、俺はごめんだ」
「っ……ね、ねぇ、そんな酷いこと言わないでよ……いつも優しかったじゃない……あっ……あの子が何か言ったの? だって親がろくでなしなんだから、きっと絆されたのよね? 早く目を覚まし……」
「お前がこんなに頭がおかしいとは思わなかった」
「っ……」
「これだと、何を言っても時間の無駄だな」
冷たい言葉を彼女に向けて、そして電話をかけ始めた。一体、誰に……
「お疲れ様です、矢野警視監。少々宜しいでしょうか。……はぁ、よくお分かりで。……瑠奈を? いや、それよりも早瀬警視長をよろしくお願いします。俺はその気は全くないとお伝えしましたが警視長と娘どちらも全く聞く耳を持っていないようですので」
「っ……」
「……当たり前でしょ。娘に至っては彼女に手を出してきたんですから、怒るのは当然です」
相手の言葉を聞かずとも、どういう会話をしているのか分かる。それは、早瀬さんも。
……でも、どうして私の名前が出たんだろう……?
そして、電話が終わると早瀬さんに向き直った。
「早瀬、それを返せ」
「っ……」
「それは瑠奈のものだ」
鋭く早瀬さんにそう言う湊さんは……怖かった。早瀬さんも、身震いをしては震えた手で湊さんの手に腕時計を乗せた。
それから湊さんは私に視線を向け、こちらに近づいてきた。そして、私に腕時計を持たせた。返すって言ったのに……
「帰ろう、瑠奈」
「えっ……」
「なら、私は日を改めることにしましょう。またね、瑠奈さん」
再婚相手らしい彼女は、これを、とさっき書いていた小さな紙を渡してきた。この方の、連絡先らしい。気が向いたら連絡してほしいとのことで、帰っていった。
「みっ湊君っ!!」
そんな早瀬さんの言葉に、何も聞こえなかったかのように私の手を取り立ち上がらせ、一緒に部屋を出た。
一瞬見た、早瀬さんの表情。それを見て、私は見ない方が良かったのではないかと思ってしまった。
だって、涙を流しながら私を睨みつけていたのだから。



