イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。


 けれど、彼女は私の腕を掴む母の手を掴んだ。その行動が頭に来たのか、母は力を入れて私の腕と彼女の手を投げた。そして、振り向き視線を早瀬さんの方に。キッと睨みつけた。

 対する早瀬さんは、焦りを見せている。


「ちょっと待ってっ!! 貴方この親子を恨んでたんじゃないの!?」

「えぇ、恨んでたわよ。このろくでなしの母親を。娘の瑠奈さんに罪はないもの」

「なっなんでっ!? 母親が母親なら娘も同罪じゃないっ!!」


 そんな早瀬さんと再婚相手の会話に、目を見張った。

 頭が、混乱してきた。

 これは、タチの悪い、悪夢かしら……


「待ってちょうだいっ! 約束と違うじゃないっ! 娘が金持ち捕まえて私のこと探してるって言うから来たのにっ! この女が来るなんてどういう事よっ!」


 えっ……それ、どういう……

 その時だった。


「それ、どういうことだ」

「え……湊、君っ……なっなんでっ……」


 部屋の入口にいた人。それは……湊さん。さっき、仕事で呼び出されたはずなのに、どうして……

 彼は、この状況と聞こえてきた会話で何となく理解したような顔を見せていた。そして、早瀬さんを睨みつける。


「ち、違うの、これは……」


 ピリピリとした空気。けれど、母は何を思ったのか「信じらんないっ!!」とその場を後にしてしまった。

 面倒になったら逃げる。本当に、全然変わらない。


「瑠奈」


 早瀬さんには目もくれず、彼は私のところに歩いてきた。

 どうしよう、何と答えれば、どんな顔をすれば。そんな不安と焦りでどうにかなりそうだった。けれど……頬に、彼の大きな手が触れた。


「顔色が悪いな。俺がこの後送るから、まず座ろう」

「ぁ……」


 後ろの椅子に座るよう促された。そんな気遣いの言葉なんてもらえるとは全く思わなかったから、驚いて言葉を失った。

 何か言うべきじゃ、とも思ったけれど……彼は、早瀬さんの方に視線を向けた。


「おかしいと思って戻ってみれば、これはどういう事だ?」


 彼のその圧のある声に、驚いてしまった。初めて聞いた、けれど怒っているとすぐに分かる声。


「わ、私は関係ないっ……そう、関係ないのっ! 偶然瑠奈ちゃんと会っただけで……!」


 苦し紛れな言い訳だという事は、この部屋にいる全員が気付いている事だろう。