イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。


「お疲れさまでした」

「お疲れ様。気を付けて帰ってね」

「はい」


 アルバイト先のカフェから家までは、カフェを出て少し歩いた先にある駅で電車に乗り、一駅向こうの最寄り駅に降りてからも少し歩く。

 本当は一駅くらいなら歩いていけるけど、時給の高い遅い時間帯にシフトを入れてもらっている為、暗い時間帯に上がる事が多いから物騒なため電車を利用している。

 このカフェは夜もやっていて、その時間は給料が高いからそのカフェを選んだのだ。もう一つのバイトとも時間を合わせやすかったという理由もある。

 電車に乗り最寄り駅に着くと駅を出て、私の家がある道を進む。すると、スマホに彼の名前が表示された。こんなに無視しているのだから、諦めてもいい気がするのだが。メッセージで送れよ、警視殿。

 これ、どうしよう。そう思いつつ、足を止めた。

 けれど、ふと気が付いた。先ほど、後ろから足音のようなものが聞こえてきていたはずなんだけど、今はぱたりと止まっている。何となくおかしく思った私は、スマホを無視してまた歩き出した。

 聞こえる。歩き出した足音が。

 いや、まさか。気のせいでは? そう思い、曲がり角を右に曲がった。警視殿の同僚さんから聞いたことがある事を思い出して。危ないから気を付けるんだよ、と教えてくれたのだ。

 進みつつ耳を澄ませると、後ろの足音も、止むことなく聞こえてくる。

 予測出来たその事実に、まさかと思いつつもまた曲がり角を右に曲がった。それでも、尚も聞こえてくる足音。段々、私の心臓の脈が速くなってくる。

 もう流石にないだろう、とまた右に曲がった。ここを曲がれば最初の道に戻る。となると、行き先があるなら同じく曲がる事はないはずだ。だから、足音も止むだろう。そう思ったのに……


「っ……」


 聞こえてくる。

 恐怖が私を襲った。どうしよう、と焦りを感じる。その時視界に入った光、コンビニエンスストアにめがけて足を速めた。早く、誰かいる場所に逃げたかった。