イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。


 湊さんは、靴を鳴らし足を速めて私の隣に立つ。


「勝手な事はしないでいただけますか」

「勝手な事、とは?」

「見ればすぐに分かりますよ。そのカードは何ですか」


 さすが警察官。すぐに分かったらしい。じゃあ、この人が娘を紹介しようとしている方で正解だったという事か。


「この際ですから、はっきり言います。私は、将来を共にする相手は自分で選びます。ですから、貴方の娘と結婚するつもりは全くありません」

「何を言っているんだい。私は、君の将来を見越して……」

「私の将来は自分で決めます。誰と結婚するかも、これからどういう身の振り方をするのかも、本人の勝手でしょう。それこそ、警察官を辞する事も本人の自由です」


 えっ……

 それを聞いた瞬間、自分の中の時間が止まったように感じた。


「っ……君は、自分の能力を無駄にするつもりかっ!!」

「それは本人の自由です」


 彼は、危険な仕事でもある警察官。その中の、エリートの警視だ。そんなに高い地位に立つのは、並大抵の覚悟では無理だと思う。

 それなのに、例えばの話ではあるけれど、辞めるなんて言葉が彼の口から出てきた。

 では何故、そんな言葉が彼の口から出てきたのだろう? 娘を紹介してくるこの人のせい? でも、この状況を作ったのは……私だ。

 私は、もうそろそろでアルバイト期間が終わり、お役御免となる存在だ。そして、彼とは関係がなくなり普通の日常に戻る。そんな私が引き起こしてしまった。

 私の、せいだ。