私が初めて湊さんと会った時、お見合いを断りに来たと言っていた。それに、警視長さんが私の質問にそう答えて、聞き直すと黙った。という事は、これは義務ではないという事。
もしかすると、以前湊さんが言っていた自分の娘を紹介してくる上司とはこの人の事ではないだろうか。
「なら、私は本人が言わない限り、何もする気はありません」
「私の言葉が理解出来ていないようだな」
「理解出来てますよ。それを踏まえて、これが義務ではないのなら、あなたが何を言ったところで私は知りません、と言ってるんです。それと、見合った相手がいいという助言はありがたいですが、親でもない方の言う通りにする義理もありませんしね」
「断るというのであれば、こちらにも考えがある」
「今度は脅しですか? ただの大学生でしかない小娘なんて、最終的に脅せば言うことを聞くとでも思ってるようですが……警視長さん、あなた、それでも立派な警察官ですか?」
今度は、睨みつけてくる。今更ながらに、ここまで煽ってしまった私に後悔しているが……言わないと腹の虫が収まらないのも事実だ。
「湊さんがどう思っているのか分かりませんが、私にそんな提案を出すという事は、本人が首を縦に振ってくれなかったから私のところに来たという事ですよね? 私としては、父親でもないのに、お願いされてない上で首をつっこんでいいとは思いませんよ」
「っ……」
「人間誰しも、自分の人生は自分で決める権利があると私は思います。それなのに、家族でもない他人にレールを引かれて、その通りに進まないといけないなんて、私は御免ですね」
「君はっ……!?」
警視長が何かを言いかけたその時、この部屋のドアが勢いよく開いた。開けた人物は、ちょうど今話題に出てきたエリートさんだった。
「……萩本警視長」
「矢野君か。たった今事情聴取が終わってね、そろそろ……」
いきなり態度を変えた警視長さんに対し、机の上に置いてあったカードをちらりと見た湊さんは……鋭い視線を警視長さんに向けていた。何となく、私もしり込みしてしまいそうになる。
何となく、私の知らない湊さんがそこにいるように感じた。



