一瞬、時間が止まったかと思った。そして、この人は一体何を思ってこんな事を言い出したのかと疑った。
そして、懐からカードを出して、私の目の前に静かに置く。
「ここに2000万入っている。これで、身を引いてくれないだろうか」
「……」
2000万……借金の他に、借りている奨学金も簡単に払えてしまう金額だ。
と、いう事は……この人はお金で私を片付けようとしている?
「彼はエリート、そして今はあの若さで警視という階級にいる。いわば逸材だ。将来的には警視正、警視長、警視監、更には警視総監にまで就けるだろう。だから、結婚する相手は警察側の人物の方が将来的には好ましい。重要な人脈を作らないといけないからね」
「……」
「君は一般人だ。君は君で見合った相手を選んだ方が、君の将来的にも良いと思うよ」
「あの、貴方は湊さんのお父上ですか?」
無意識に、その言葉が勝手に口から出てしまった。
笑顔でそんな事を言ってくるが、湊さんの将来は自分が決めるものだとでも言っているような態度に見える。
それに、お前は貧乏なんだから見合ったやつにしろ、と言われているような気もした。
つい言ってしまった言葉だけれど、出てしまったものは戻せない。
「……いや、違うが」
「警察では、上司に用意された結婚相手と絶対に結婚しないといけないって決まりがあるんですか? すみません、私警察じゃないので知らなくて」
「……何が言いたい」
「ないんですか?」
「……私は、矢野君の上司だ。部下を成長させ導いてやるのも仕事の内。部外者には、こちらの事をよく知らないだろう。だからとやかく……」
「ないんですね?」
「……」
部外者、ね。



