イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。


 湊さんと出会って、もうそろそろで3ヶ月。アルバイト期間がもうそろそろで終了する。

 私はアルバイトで恋人役を勤める事になったけれど、期間中にちゃんとした恋人役を勤められただろうか。

 湊さんの同僚さん達とたびたび会い、全力で勤めたけれど……心残りがある。

 私はずっと、ずっとあの人達に嘘を吐いていた。すごく仲良くしてくださっていた人達に。

 これは湊さんに依頼されて恋人役を務めたに過ぎないけれど、それでも罪悪感がある。

 それと同時に、私に電話やメッセージを送ってくれる湊さんへの気持ちが変わりつつある事も気付いている。

 それが、どう変わっているのかは分からないけれど、アルバイトに支障をきたす事は分かっているから、平然を装っている。もうそろそろで終わりなのだから、それまで頑張ればいい。


 今日は珍しく一日お休みで、湊さんもお仕事だから予定は何もない。だから、リフレッシュのつもりで街中を歩いている。お金はないけれど、歩くくらいならお金はかからない。気分転換は必要だと思う。まだアルバイトは終わってないけれど、今日は気楽にいこう。

 けれど、ふと気が付いた。バッグの持ち手をかけていた肩が急に軽くなり、その横を走り去っていく男性が視界に入ったのだ。

 その男性の手には、見覚えのある私のバッグ。


「えっまっ待って!!」


 すぐにひったくりだと気がつき追いかけるけれど、成人男性に追いつくような身体能力はない。

 スマホは手元にあるけれど、あの中には財布や貴重品が入ってる。あのバッグを持っていかれるのは困る。

 どうにかして……と思って追いかけていたら、誰かが男性を地面に押さえつけている場面が見えた。


「11時35分、と」


 そう言いつつ、彼は犯人に手錠をかけつつスマホで誰かに電話をかけていた。

 その男性の顔に、見覚えがあった。


「あ、瑠奈ちゃんだ。これ、君の? 怪我はない?」

「は、はい、私のです。怪我もしてません」


 犯人を押さえつつ私を見上げた男性は、湊さんの同僚である野木さんだった。


「あ、ありがとうございます」

「いいっていいって、怪我がないのなら安心安心。あ、湊には言っておこうか」

「あ、いえ、大丈夫です」

「そうか?」


 涼しげな顔をしているけれど、じたばたする犯人をがっしりと地面に押さえつけている。すごいな。さすが警察官さん。