イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。


 買い物を終えて、私達は湊さんの家に到着した。以前も来たことがあるけれど、マンションとなるとやっぱり緊張する。

 前に居眠りした奴が何言ってるんだと言いたいところだが、その時は疲れていたからだ。だって、いきなり湊さんの同僚二人と会って、湊さんなしで一人で恋人役頑張ったんだから疲れるに決まってる。褒めてもらいたいくらいだ。


「お邪魔しまぁす……」

「遠慮せず入れ」

「あ、はい」


 知っている廊下を歩き、リビングへ。そして、キッチンに向かい唯一持たせてもらえた袋の中の野菜を取り出した。それを、冷蔵庫を開けた湊さんに手渡す。

 以前にも思ったけれど、冷蔵庫、大きいな。さすがお金持ち。一体警視ってどれくらいのお給料なんだろう。聞きたいところではあるけれど、恐ろしくも感じるから聞かないでおこう。


「今日はすき焼きだ」

「へぇ……」


 と、言いつつ彼がキッチンの収納棚から出したものに驚いてしまった。でかっ……と。

 彼が出してきたのは、鍋だ。大人数ですき焼きをするにはちょうどいいサイズだ。


「前にアイツらが買ってきたんだ。これですき焼きを作ってくれ、ってな」

「なるほど……」


 いや、なるほどで納得していいのだろうか。皆さんは、最初から湊さんに作ってもらう前提でここに来るのね。まぁ、湊さん料理上手だし、気持ちは分かる。以前食べさせてもらったうどん、美味しかった。

 すき焼きは作った事あるか? と聞かれてNOと答えると、じゃあ野菜を切ってくれとお願いされた。ねぎに、春菊に、焼き豆腐に、と定番のものばかりが並んでいく。

 以前、友達の家に招待されて食べたすき焼きは覚えている。それは中学の時の記憶で、それからは全く食べる機会がなかった。それもあってかだいぶ楽しみである。


「〆はうどんだな」

「うどん、美味しいですよね」

「この前食べたろ」

「すっごく美味しかったです」

「冷凍うどんだけどな」

「冷凍うどんだって思えませんでした」

「褒めても何も出ないぞ」


 お世辞ではない。本当に美味しかったんだから。

 けれど、思った。このすき焼き、お肉と他のものとのバランスがおかしい気がする。このお鍋に対して野菜と焼き豆腐の量が極端に少ない。という事は、他は肉という事になる。まぁ、あんなに買い込んだのだからお肉は多くなるだろうけれど……

 食事のバランスは、ちゃんと摂らないといけないのでは? と、思ったけれど、さっき買ってきた野菜を取り出した湊さんは、せっせと副菜を作り出した。なるほど、そういう事か。

 皆さん、すき焼きが好きらしい。すき焼きのお肉が、か。