イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。


 湊さんの家に来てしまったが、仕方ないことではあった。でも、あそこであのまま駅に連れていってもらえればこんな事にはならなかったとも思う。

 けれど、気になった事が一つ。海さんに寂しがらせてるとか言われた時の、湊さんのあの反応。いつもは塩対応とか言っていたのに、どうして黙っていたのだろうか。しかも、鍵まで渡してきたのだからおかしかった気がする。

 それに、湊さんをよく知ってる海さん達だって、驚いた顔をしてたし。

 上がらせたこともない、ただのアルバイトを本人がいない状態で家に行かせるだなんて。これ、いいのかな。もしもし警察官さん? 物騒ですよ?

 ドアを開けると、広い玄関が見えた。すごく清潔感のある玄関だ。そろりと入り、静かに靴を脱いだ。しっかりと靴を揃え、玄関から続く廊下をきょろきょろしつつも進んだ。

 ……何となく、悪いことをしているような、そんな気分だ。本人から了承はもらっているから、決して私は泥棒ではないし不法侵入でもないのは分かっているけれど。

 そして、目の前にあるドアを開くと、広いリビングに行き着いた。

 ソファーにローテーブル、大きめのテレビにと揃っているけれど、あまり生活感は感じられなかった。

 一応テーブルにニ脚の椅子はある。その奥にはキッチンだろうか。

 こんなに広い部屋なのだから、家賃は高いことだろう。さすが、エリート警視。持っていらっしゃる。

 さて、困ったぞ。今からだと、彼が戻ってくるのは4時間。それまでどう時間潰しをしたらいいのだろうか。

 とりあえずどこかに座ろう、と思いつつテーブルに並んでいる椅子に座らせていただいた。椅子の隣にバッグを置き、スマホを開いた。


「大学のノート、持ってくればよかった」


 それなら、勉強出来たんだけどなぁ……まぁ、なければないでやれる事はあるし、それで暇つぶししよう。