イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。


 この水族館は意外と広く、全部回るのにだいぶ時間がかかった。そして今は、この水族館の中にあるカフェにお二人と一緒に入ってテーブルを囲っている。

 私は海さんと同じくパスタを注文したのだが、だいぶ緊張して手が震えそうになっている。少し明かりを落とした館内に対し、カフェはとても明るいから簡単に表情などが見えてしまう。ここでぼろを出したくはない。


「瑠奈ちゃんって大学生でしょ? 湊君といつ出会ったの?」


 当然、飲み屋で聞かれた質問にも答えないといけなくなる。前回はほぼ全て湊さんの「煩い」ではねのけられていたけれど、今ここに彼はいない。私が一人で何とかしないといけないのだ。


「その……私の友達が、湊さんの友達で、偶然友達といる時に会ったんです」

「へぇ~」


 ……すみません、友達に来たお見合いを断ってこいと向かわされて出会っただけです。

 これ、あとでちゃんと口裏合わせないとなぁ、はは……


「湊に友達いたんだな」

「ね~。妹はいるって聞いた事あったけどね」


 へぇ、妹さんがいるんだ。聞いたことないな。

 今思うと、まだ1ヶ月くらいだから湊さんの事はあまりよく知らない。一応、最近出来た彼女という設定だからそんなに知らなくても大丈夫だろうけれど。

 けれど、思った。

 この二人は、だいぶ私に優しくしてくれている。さっきだって、私が寂しい思いをしてるからと言っていた。けれど、私は今この二人を騙している。嘘をついている。

 アルバイトの彼女役として雇われたのは分かってる。けれど、ちょっとチクっと来るな。