イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。


 先ほどまで電話していた湊さんは、私を見ては気まずそうな顔をしていた。電話の内容が原因だろうか。


「瑠奈、悪いんだが水族館はまた今度でいいか」

「え?」

「署に行かなければならなくなったんだ。だから、今日は家に……」

「じゃあ私達と回ろうよ!」


 やっぱり警視さんは忙しいのか、と思った瞬間の海さんの恐ろしい提案である。さすがにそれは、恐ろしすぎる。助け船は全くなしでの恋人役アルバイトなんて、危険すぎる。

 私の思っている事を理解してくれたのか湊さんはだいぶ渋っていた。何度か断ったけれど、最終的には……


「そんな事言って、そんなに独占欲出してたら瑠奈ちゃんに嫌われるわよ」

「……」

「湊君、瑠奈ちゃんとのデートっていつぶりなのよ。多忙な事は知ってるけど、それだけ瑠奈ちゃんに寂しい思いをさせてるって思わないの?」

「……」

「なら、せっかく来た水族館を途中で終わらせるのは可哀そうなんじゃない? 仕事放棄なんて出来ないから瑠奈ちゃんを置いていく事になっちゃうけれど、ならせめて私達が最後まで付き合ってあげた方がいいんじゃなくて?」

「……」


 だいぶ圧をかけて意見をぶつけてくる海さんに対し、湊さんは……眉間にしわを寄せて黙り込んだ。

 とはいえ、私はただの恋人役のアルバイトだ。決してそんな事は微塵も思ってない。寂しいとか、そういう感情は全くなしで仕事をしている。そしてそれは、湊さんも知っている。


「あの、私、大丈夫ですから。湊さんが忙しい事も、お仕事頑張ってることも、知ってますから。また今度、一緒に水族館リベンジしましょう!」

「……」


 全く身動きせず、口も動かない湊さん。これは珍しい事なのか、彼の事を知っている二人も黙り込み驚いた表情を浮かべていた。

 一体、何を考えているのだろうか。


「……鍵、忘れたって言ってたよな」


 ようやく口を開いたかと思ったら、これまたよく分からないセリフが出てきた。一体何の鍵を私は忘れたことになっているのだろうか。すると、私の目の前に出されたのは、やっぱり、鍵だった。

 目をぱちぱちとした後、受け取ってしまった。


「今日、遅くなるかもしれないから先に食べて寝てていい」

「……はい」


 じゃあ、と頭を一撫でしつつ行ってしまった。

 今、一体何があった。