「先行こう」
「え?」
海さんが爆笑中に、私に話しかけてきた湊さんは、呆れ顔をしている。これは、いつもの事なのだろうか。
「別に置いてっていい。本当は二人のはずだったんだから別にいいだろ」
「そう、ですか」
また手を繋ぎ、二人から離れて先に進もうとすると、私達に気が付いた海さんはすぐに私の手を取ったのだった。
そんな時、湊さんのスマホに明かりがついた。
電話だったらしく、電話してくると私達と離れた。警視さんだから忙しいのは当たり前のことだ。一応証拠作りという事でデートで水族館に来たわけだけれど……大変だな。
「ねぇねぇ瑠奈ちゃん、湊君とどう?」
「え?」
コソコソ話のように聞いてくる海さんに、野木さんまで耳を傾けてくる。
「最近アイツ仕事の合間に瑠奈ちゃんに電話してるのを皆見てて噂になってるんだよ。今まで彼女なんて作った事ないくせに、出来た瞬間あれだぜ? どうせデレデレなんだろ? 瑠奈ちゃんの前じゃ」
「人前では真面目で他に興味のない塩対応なやつが、実は彼女の前では甘えたでデレデレだったなんて美味しいに決まってるじゃない? それでそれで、どうなの?」
……さて、私は一体どう答えればいいのだろうか。デレデレ? 甘えた? 一体誰の事を言っているのか分からない。
けれど、塩対応なんだ、湊さんって。知らなかった。いや、今までいろいろと参ってたみたいだし、それが原因で塩対応になっているのかな。本人に聞かないと分からないけれど。
「……そんな事、ないですけど?」
「本当?」
「は、はい」
「え~、なぁんだ」
これで切り抜けられただろうか、と思ったけれど、私の考えは甘かったようだ。
「じゃあ瑠奈ちゃんの前でも気取ってるのね。アイツ瑠奈ちゃんより年上だし、瑠奈ちゃん大学生だし。意地張ってるって事かぁ~」
「でもそれはそれで面白くないか?」
「うん、確かにそれはそれで美味しいかも。言いふらして……」
「聞こえてるぞ」
ようやく戻ってきてくれたらしい。けれど、冷ややかな目でこちらを見てくる彼が、だいぶ怖く感じた。
お二人も、苦笑いである。でもこれは、言いふらしてやろうと言いかけた海さんが悪いと思う。私は、悪くない。



