湊さんの彼女役を務めるようになって、 一ヶ月が過ぎた。長いようで、短くも感じる。
「彼女が出来たからって断り方、使い勝手いいな」
「……そうですか」
飲みなどのお断りに彼女役である私を出し、電話も駆使して使いたい放題である。
そして、証拠作りと言って休みに湊さんと会う事が増えた。と言っても、私は大学とアルバイトがあるのでなかなか時間は取れないけれど。でも、電話にメッセージにとやり取りがある為、一応彼女役アルバイトをこなしている。
「手」
「えっ」
「人が多いからな。迷子になるぞ」
迷子、ですか。
最近、自然と手を繋ぐようになったけれど……以前カフェで言われた琳の「付き合っちゃえばいいじゃん」という言葉を思い出すと、ためらう時がある。
「すぐに見つけられるだろうが、その歳で迷子は恥ずかしいだろ」
「……はい」
今日は水族館に来ている。昨日、同僚から聞いてデートに選んだそうだ。先ほど、カップル割というものがあり、迷うことなくそれを選んだ湊さんに私は何も言えずにいた。まぁ、一応アルバイトで恋人役であるから間違ってはいないが。
「……デカっ」
「確かに、デカいな」
つい口からそんな言葉が出てしまった。隣にいる湊さんは気にしていないようだけど、さすがにこんなに大きなサメを見ればそんな言葉が出てくるはずだ。こんな生き物に標的にされたらひとたまりもないな。
水族館だなんて、一体何年ぶりだろうか。学生時代に遠足で来たくらいだろう。ウチは貧乏だから仕方ない。
「わぁ……何匹いるんですかね」
「数えるか」
「無理言わないでください」
綺麗なライトに照らされたクラゲ達が優雅に泳ぐ光景は、神秘的に見える。けれど、思った。こんなにじろじろ見られて気持ちよく泳げるものなのだろうか、と。まぁ、ここまでくれば慣れか。忙しいな、クラゲ達も、他の魚達も。
なんて考えている私の心情を彼が知れば、どう思うだろうか。普通の可愛い女の子であれば、綺麗って純粋に感想を言ってくれる事だろう。対する私はそんな事は口にしない。残念な女である。
とはいえ、彼の知人が近くにいればそんな可愛い女子を演じればいいのだろうか。今まで大人しくしていたけれど、それでよかったのかまだよく分からない。直接湊さんの知り合いに会ったのはあの飲み会の時だけ。あとは電話と、メッセージと、証拠作りとしてデートをしたのみだ。
もしいきなり出くわしたら……どうしたらいいのだろうか。



