イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

 それから、自己紹介が始まった。けれど、そういえば私はまだ自己紹介をしていないのに何故か「瑠奈ちゃん」と呼ばれていた事に気が付いた。湊さんが言ったのかな?


「ねぇねぇ、最近付き合ったんでしょ? どう? こいつ無表情で面白くないでしょ~」

「え……」

「瑠奈、これ美味いぞ」


 すかさず、隣の湊さんによって私の目の前に料理が並べられた。このかわし方でいいのだろうか。

 それに、無表情と言うけれど、よく見るとちゃんと表情筋は動いている気がする。と言っても、会ったのはこれで4回目だけれど。

 けれど……ずっと「お前」とかばっかりだったから、瑠奈って呼ばれるのは新鮮と言うか、何と言うか。それを思うと気恥ずかしくなり、ビールを一口で飲みほした。


「お~良い飲みっぷり! もう一杯いく?」

「飲みすぎはダメだ」

「そう固い事言わない言わない! 今日くらいいいでしょ!」


 勝手にビールを3杯ほど注文されてしまった。適当、とはこの事を言うらしい。残りの2杯は誰が飲むのだろうか。

 でも、気まずい、という事はなくなった気がする。わいわい盛り上がっているからだろうか。私への質問攻めが始まろうとしていた時に湊さんがはねのけ別の話題を出してきたから、私には知らない話題ばかりが飛び交った。けれど、聞いているだけで楽しい。


「これ、好きだろ。頼むか」

「え? あ、はい」


 湊さんも、そうやって声をかけてくれる。一応私は彼女役なので、彼氏となる湊さんもこの事がバレないよう努めてくれているのだろう。


「ビールはもう終わりだ。何か飲むならソフトドリンクにしろ」

「じゃあ……麦茶にします」


 まだ飲めますよ、と言ったら他の人が便乗しそうだから言わないでおこう。ここで酔っぱらってはボロが出る。気を付けなきゃ。

 そう思いつつも、お手洗いに行ってきますと彼に告げてから席を立った。