イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。


「さ、選べ」

「あの、本当に大丈夫ですから」

「牛肉にするか。分厚いやつより薄切りの方が料理しやすいか。国産牛はこっちだな」


 最後の行き先は家の近くにあるスーパーとなった。お肉コーナーに向かうと肉を買ってやると言われてしまい、今に至る。

 牛肉の栄養を見誤るなよ、アルバイト。と言われてしまえば私は何も言えなくなる。

 私の目は半額シールの張られた豚肉の薄切りに向いていたのだが、それに気が付いた彼は私を牛肉コーナーへ連行。最終的には彼の選んだ薄切りの特上国産牛がかごの中に納まったのだ。

 ……さて、今日の夕飯は何にすればいいのだろうか。恐ろしくて手が出せなさそうだ。

 こっそりもやしを入れたけれど、却下されて違う野菜が入れられてしまったのは言うまでもない。もやしの食いすぎはダメだと言われてしまった。毎日もやしを食べている事は気付くか。

 支払いは湊さんで、向こうで待ってろと追いやられてしまった。一体いくらになったのかと気になったが、レシートは見せてもらえなかった。


「行くぞ」

「あ、はい」


 今日一日、ずっと手を繋いでいた。買い物をする時も、カフェに行く時も、そして今スーパーで買い物をする時も。温かくて大きな手で、だいぶ緊張してしまったけれど、その緊張はスーパーに寄った頃には少しやわらいでいた気がする。


「じゃあ、またな」

「あ、はい、ありがとうございました」

「いや、いい。それよりも、ちゃんと食えよ」

「は、はい、ありがとうございます」

「あぁ、おやすみ」

「あ、はい、おやすみなさい」


 彼の車を見送りつつ、私は玄関に入った。

 ……私、あ、はい、しか言ってなくない? と思ったけれどそれはスルーしよう。

 いつもと違い、初めての事がありすぎてキャパオーバーしている気もするけれど……


「牛肉、どうするか……」


 こんな高い牛肉を貧乏な私が料理して一人で食べてしまってもいいのだろうか。何だかもったいない気もするけれど……牛丼? 玉ねぎもあるし。

 結局牛丼になり、私は至福のひとときを過ごすことが出来たのだった。