私は、自分のタンスの中身とにらめっこしていた。
アルバイトで恋人役をさせていただく事になった相手の湊さんは、だいぶ容姿端麗だ。女性達が集まるのも分かる。昨日お見合いが終わった後に席を立った彼はだいぶ背が高くてすらっとしていた。
この人の恋人役を私がやってしまっていいのかと、あの後だいぶ考えてしまった。
明日デートと称して慣れるように練習をすることになっているんだけど……おしゃれな服がない。ウチは母親のお酒代などでお金が飛んでいたから元々貧乏なわけで、そんな家におしゃれなものがあるかと言ったらNOだ。とりあえず、苦しいがシンプルイズベストと言っておこう。
……ごめんなさい、と心の中で謝りつつも服を選んだ。
次の日、湊さんが車で迎えに来てくれた。着いたぞ、というメッセージが送られてきて、急いで家を出ると……
「来たか」
「あ、はい、お待たせしてしまってすみません」
「待たせる、の範囲に入らない時間だから気にするな」
よし、時計付けてるな、と私の左手首を確認した彼は歩き出した。私もそれに付いていくと、近くに停めてあった車を見つけた。彼は慣れた手つきで助手席のドアを開けて、乗るよう促してきた。黒の乗用車で、とても彼に似合った車だと思った。
そんな車の助手席を占領してしまった事に申し訳なさを覚えたけれど、アルバイトなんだからと割り切ろう。
その時、ふと見た運転席。運転席のシート、一番後ろに下げてあるな。と、思ってしまった。足長っ……
すると、彼が運転席のドアを開けて乗ってきたのですぐに視線を前に戻した。



