イケメン警視、アルバイトで雇った恋人役を溺愛する。

 で、その腕時計は? と聞かれたのでこちらも説明をした。

 それは、お見合い後の帰り際の事。彼は左腕の手首に付けていた腕時計を外し私に渡してきたのだ。


『支給品。付けてろ』

『えっ……それ、あなたのですよね……?』

『湊』

『え?』

『彼女役だろ』

『……はい、湊さん』

『明日から俺は予備を付けて出勤するつもりだ。そうすれば必ず同僚は気付いてツッコんでくる。その時、彼女が出来たという話を出す』

『……なるほど』


 と、いうことになった。

 彼女の話を出すという事は、前の腕時計は彼女にあげたと言うのだろうな。だから、私がこっちを付けないといけないという事か。

 うん、アルバイトではあるけれど……彼女役を演じるという事に実感が湧いたような気がする。


「マジか……さすが警察官、って言ったところ?」

「かもね。私ちゃんと出来るかな。同僚って言ってた人達だって警察官だし、バレる可能性は一般人より高いよね」


 結構ドキドキだから、気を付けるところはちゃんと理解しないと。借金返済のために頑張らなきゃ。

 実は、明日また湊さんと会う事になっている。同僚の人達に会う前に慣らさないとバレる可能性があるからとデートをすることになっている。デート、と言っても練習だ。最近付き合ったという事になっているけれど、互いの事をちゃんと知っていないと疑われる。

 本当に徹底してるよね。さすが警視さん。


「よし、振り込んだよ」


 自身のスマホを操作していた琳が、いきなりそう言い出した。

 振り込んだ、というのは昨日のお見合い代行アルバイトのお給料の事だろうか。


「……早くない?」

「アンタが大変そうだったから今振り込んだのよ。早い方がいいでしょ」

「うん、持つべきは友だ」

「現金なやつね」


 50万が振り込まれたなら、すぐに滞納してる家賃をまず払おう。あと今月の借金支払いも。今は節約第一にしているから、無駄な支払いはないようにしなきゃ。……と言っても、次のアルバイトは恋人役。多少の出資はあるかもしれない。

 まぁ、交通費免除に食事付きだから何回かの食事代が浮く。だからその分をアルバイトに使えばいい。

 けれど、困った事が一つ。