世界はそれを愛と呼ぶ



「─御巫家当主、御巫統さまへ。伝言を預かっております。手紙に残すことができぬため、口頭にて」

両手を前につき、深く身体を倒し、絃は停止する。

「手紙をお伝えする前に一言、言わせてください。
─お会い出来て、光栄で御座います。ひいお祖父様」

その言葉に、統さんは目を見開いて。

「……何か、間違いじゃないかな?」

優しく、指摘したが。絃は首を横に振って。

「統さまにとっては忘れたい存在かもしれませんが、祖父─篝月紺(カガリヅキ  コン)より、必ず、お会いする機会が訪れたら、伝えて欲しいと頼まれているのです」

あまりにも堂々とした態度に、

「そうか……それで、紺本人は」

覚えのある名前だったのか、統さんは尋ねる。

「元気にしていますよ。ただ、直接お会いすることは叶わないかと」

「……君は、私の?」

「曾孫です。とは言っても、祖父の顔は知りません。同時に、父の顔も知りません。母の顔も知りません。ですが、祖父からは手紙がよく届きました。自分は愛されて産まれてきたこと、諸事情で両親には会えないことを教えられ、自分には双子の弟の他に、双子の妹もいるそうで。実は四人兄弟なんだよ、と、祖父が」

「君は気にならないのかい」

「諸事情ですか?」

「両親に、会いたいと思わないのか」

「人は、知らぬものを望むことはありません」

にこっ、と、曽祖父相手なのに、どこか距離を感じる。
初対面だから、初耳だから、致し方ないこと。
だけど、これは少しわかだまりが残りそうな……。

「……君の祖父だという、紺はね、私の初めての子だよ。第一夫人が産んでくれた、私の長男。優しくて、穏やかで、妻に似て賢くてね。だけど、ある日突然、姿を消したんだ。『死んだものと思って』なんて、そんな書き残ししてね」

「……」

「なんて残酷な置き手紙かと、そう思った。それでも、どこかで生きているのなら……と、妻と願い続けて……そうか。結婚し、子を宿し、その子もまた素敵な人と出会って……君が産まれてきたのか。妻が聞いたら、心から喜んだだろうな」

優しい人、優しい表情。
統さんの第一夫人は、既に鬼籍に入っている。
第三夫人も亡くしているため、彼は現在、第二夫人と生活している。夫人同士はとても仲が良く、姉妹のようで、皆で統さんを支えていたと、教えて頂いた。