世界はそれを愛と呼ぶ



「─……へぇ、なるほど。御園の資産」

絃は感心した後、目を輝かせて。

「お父さん、それ、知らなかったよ」

「ほう?」

「お父さん、凌のことを信頼しているからね。凌が大丈夫、と、そう言って渡した通帳を元に、コンサルタント……色々と悪巧みしているって笑ってた」

「裏がありそうだと、疑わなかったのか?」

「疑っていたよ。でも、それを利用せずに腐らせる方が無駄だと感じたのだと思う。何より、お父さんは第三夫人、自分の最愛の人や子供達を、三つ子を守れるのなら、自分自身の身なんてどうでも良いと思っているし」

「賢明な判断だな。命を軽視している点は無視出来ないが、それはこちらが全力でフォローさせてもらおう」

そう言って、相馬は自身の指先を噛み切ると、少量の血を、懐から出した紙に付け、息を吹きかけた。
その紙は瞬く間に蝶となり、羽ばたいて消えていく。

「……御園家において、愛が全てだ。愛に対しての姿勢は、異常だ。だからこそ、愛に尽くすものには敬意を示し、最大限の救いを」

それは、全てをひれ伏すほどの愛の話。
運命すらもねじ曲げて、全ての上に君臨するほどの強烈な。

「ああ。あと、その資産だが……俺の個人資産だから、使い尽くしても良いぞって、機会があれば、伝えておいてくれ」

「……あれ、使い尽くせる額だったかなあ?」

凌からこっそり通帳の総額を見せてもらっているらしい絃はおかしそうに笑いながら、未だにどこが出所がわからないが、利用している養父を不憫に思うと言った。

「慎ましかに、一般家庭のような生活はしていないだろ。なら、頑張れば、一生で使い切れるさ」

「うーーーん……まあ、ひっくり返るかもしれないけど、伝えておくね。あ、あとー」

絃は何かを思い出したかのように、手を叩く。

「御巫統さんに会いたいんだけど」

「統に?」

御巫統─それは、相馬の祖父である御園陽介の弟であり、御巫家の初代当主である。

兄である陽介を支える為に家を興し、番などの本能が薄かったこともあり、人助けに身を捧げ、御園家や現代では珍しく、第三夫人まで迎えた、相馬の大叔父にあたる男だ。

「─呼びましたか?」

……気配はあったが、タイミング良く、外からかかる声。

「呼んだ」

相馬が肯定すれば、顔を出したのはふたり。

「作戦会議か?」

「楽しそうですね」

隻眼の好好爺─祖父と、長髪の好好爺─大叔父。

「─さて、私に話とは何かな?」

統さんはそう言いながら、絃の前に腰を下ろす。
にこっ、と、人当たりのいい笑顔を浮かべ、絃はその姿に姿勢を正す。