世界はそれを愛と呼ぶ



「まあ、でも、馬鹿な連中も馬鹿ばかりではない。一部は、健斗さんを怪しんだ。そして、警戒した。何故なら、健斗さんは俺達と繋がりがあったから」

だけど、健斗は完璧だった。
その繋がりすらも上手く利用して、徹底的に自分の存在を消した。何があっても、自分は無関係だと貫いた。
─その結果が、現在である。

「一部の人間は俺達の婚姻には肯定を見せ、賛成を示し、俺達に取り入ろうとするだろう。そして、一部の人間は反対するだろう。パーティーを行うと決めてから、ゆっくりと確実に準備を進めているが……なあ、沙耶?」

「なに?」

「国が、法が、彼らを守るのならば。彼らを確実に裁くために、どう動けばいいと思う?」

相馬の問いかけに、沙耶は微笑む。

「逃れられない証拠を突き付ける。犯行現場を、残す」

「そうだな。そして、お前の街には優秀な黒宮家を始めとする、番犬がいる」

黒橋健斗は、望んだものに教育を施す。
それはそれぞれの子どもに合わせた教育法であり、彼らはそれぞれ得意にに特化した能力を伸ばしていく。

例えば、ハッキング、変装、暗殺、諜報などのそれぞれのスペシャリストが、その界隈では伝説的な存在となっている連中が全員、健斗に膝を折っている。

「そして、俺は御園家総帥として、国から預かった権限がある」

「権限?」

「ああ。─監察官という役目をな」

─そう。それこそが、多くの人間が御園家の当主になりたがる理由。

その権限さえ手に入れてしまえば、どの名家の屋敷でも覗き放題であり、法などでは裁けない。
─何故なら、御園家当主こそが、国に不利益をもたらさないか調べる監察官だから。

だから、誰しもが監察官になりたがる。

「そんな役割あるの?」

「あるある」

「でもそれって、御園が悪いことをしないって保証にはならないじゃない?」

沙耶の考えは、真っ当である。
御園が、相馬が本気にさえなれば、国家転覆など一晩もかからないだろう。だけど、それをしない理由は。

「保証にはならないけど、面倒くさいだろう」

これである。

「め、面倒くさい?」

「ああ。面倒くさい。国なんか要らんし、そんな過度な権力も邪魔だ。正直、御園家に産まれた時点で手いっぱいなのに、当主だの、鬼帝だの、監査官だの……」

はあ、と、深いため息をつく相馬。
思わず、陽向は口を開いてしまう。

「─御園と国の契約は、当主代替わりごとに行われるものだ。だが、人の感情や書類ごときで互いを牽制できるものでは無いことくらい、既にわかるだろう」

「そうですね」

「だから、こちら側の弱味を渡すんだ。こちら側で調べた、現在、いちばん信頼できる向こう側の人間に、こちら側の弱味、番という存在の重要性などをな」

「でも、それは」

「そう。広められたら、この家にとっての致命傷になる。だが、それはこの家が許さないんだ。これまで、何度か秘密を漏らす奴はいたが、その秘密を漏らしたものをはじめとし、知ったものは全員、自然に葬り去られた」

それは、事故死、病死、通り魔などによる不遇のものまで、様々なものだったという。