世界はそれを愛と呼ぶ



「上である相馬より、下であるお父さんができることを自分ができないはずはない……そう思うのは、人間としての当然の心理でしょう?」

「だから?」

相馬は、沙耶の頬を優しく撫でる。

「例え当然だとしても、自分の失敗を取り成した相手にすることではないと思わない?」

「……?」

相馬の質問に、沙耶は首を傾げた。
相馬が夏鶴に目で合図すると、夏鶴は少し怯えた顔を必死に隠して。

「……あの街はね、犯罪を隠すのに便利だった。言わば、彼らの遊び場だったんだよ。沙耶」

「遊び場」

「そう。国の制度とは別に大金を搾取して、連絡手段を断ち、あの街から出ていけないようにする。娘を攫い、自らの手慰めや商品とする。壊れたら、実験行き。そういうサイクルが、西園寺家が潰れてから行われていたんだよ」

─……何度聞いても、胸糞悪い話である。
そして、それを知った上で目を瞑った連中がいる事実も。

「そして、その管理をしていたのが、その土地の地主だ。だが、その日々は突然終わる。ある日突然、その地主が死んだから」

「……」

それは、刃が向けられた瞬間である。
沙耶も察した。─それが、自身の父の仕業であると。

「そうなるとな、都合が悪いことが街に残る。釣られて悪党の溜まり場となっていた隣街、実験施設、つまり、元西園寺家がある街、地主の家があった街……彼らは、国は、それらを容易に放り出した。─何故か?探られたら、困るからだ。だから、燃やし尽くそうと、殺し尽くそうと、そして、その罪をその土地に古くから居座っていた極道の黒橋家に押し付けようとした。だが、蓋を開けてみれば、地主よりも遥か昔に、その当主は死んでいた。無人の極道の屋敷を提示したところで、説明が付かない。そこで、都合良く男が手を挙げる。─家出していたはずの黒橋家の嫡男が、会社を興すためだと、そう言って、その屋敷に移り住んだ。それはとても、彼らにとって都合が良かった」

それは全て、健斗の手のひらの上。
彼らは見下しているはずの相手に操られ、遊ばれ、そして、見守られていた。