世界はそれを愛と呼ぶ



「お父さんがそういう扱いを世間で受けるの、分かりきってることでしょう」

沙耶は呆れたように言う。─でも、納得はできないだろう。
だって、ふたりにとっては恩人だ。親代わりだ。それを素直に飲み込めるほど、彼らは大人じゃない。

「……沙耶と出会ったあの日から起こった出来事、あの地下牢、あの街を国が放棄した廃墟での実験による事件、家に、御家族の元に帰す事が出来ていない御遺体……わざわざ神宮寺家の人間である慧が遣わされた事実、湊さんの過去、沙耶のトラウマに、あの学校の教師達の遍歴、黒宮家に属するもの達の過去、そして、沙耶が家出先に選んだ一家の素性、、それら全てを綺麗に整理して、並べると、全て無関係ではいられない」

相馬は、全て見通しているかのように。

「結局は、ひとつの大きな道筋がある。それから派生する形で、悪が生まれる。優者と劣者、賢者と愚者、強者と弱者……と、いうように。残念ながら、それがこの世界の常識だ。だからこそ、国民が税で喘ぎ苦しもうと、裏で議員はパーティーを開き、国民が何度も挑む壁を、彼らは裏金という力で跨ぐ。黒橋家は、あの街は、そういう常識から弾かれたもの達が集まっている」

「……」

「馬鹿な連中だ。命の価値は同じなのに、どうして、自身が刃を向け、傷つけたもの達が同じことを仕返してくるとは思えないのか。国と法に守られているから、と、彼らは言うが……果たして、俺が沙耶と結婚することを発表した暁に、彼らはどんな顔で俺を見るのだろうか」

国から見捨てられた土地を治め、下だと見下されてもなお、国民の間では称えられる黒橋健斗。
そんな彼を下すぎて見ることすら恥だとしていた連中は、彼の愛娘である沙耶と結婚することになったのが、御園家総帥であり、自分たちが敵わぬと、見上げることすらも諦めた相馬だと知ったら。

「同じ世界で生きながら、俺と沙耶は対極の存在だとされているらしい。─密かに生活しているつもりでも、噂は囁かれる。人の口に戸は立てられぬ、という言葉通り、今、一部の人間は震え上がっているだろうね」

静かに、相馬の瞳の奥は揺れていた。
それは、彼の怒りを静かに表している。

「…………相馬?なんか怒ってない?」

気にしてないよ?と、そう言う沙耶に、既に手遅れな話だと、陽向は思った。

間違いなく、相馬は怒っている。そして同時に、沙耶を直接的に傷つけたであろう奴らはもう─……。