世界はそれを愛と呼ぶ

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─黒橋沙耶は、生粋の人たらしである。
それは父親である、黒橋健斗から譲り受けた才能だ。

生来の彼女は真っ直ぐで、溌剌としている。
少なくとも、事件が起こるまではそうだった。

ならば、誰が事件を、平岡朝陽を死なせたのか?
だれが、平岡アイラを唆した?
そして、誰が、松山久貴の最期を、彼女に?
─簡単だ。それらを、望むもの。
そして、黒橋沙耶が壊れることを望むもの。
強いては、黒橋家が揺れることを、望むものが。

「……」

─時に、人は馬鹿なことを考える。
十人十色という言葉があるのだから、人と人の考えが違うこと自体は当たり前の話だが、それ以上に、馬鹿なことを考える人間はこの世界にありふれている。

「─冬の当主はね、権力を望んでる」

「へぇ?ありがちだね」

「ただの権力じゃないよ。誰もが跪く、そんな世界を。自分が中心となりうる、世界を望んでるんだ」

「そんな価値、そいつに無いのに?」

「それでも、その世界は実現できると思っているみたい。……だって実際、先祖の功績で、若造である御園相馬が、その地位を得ているのだから」

(……結局、そこに話は行き着くのか)

陽向は横で聞きながら、嘆息した。
─馬鹿な話である。御園家に産まれたから、ただそれだけの理由で、何万、何十万、否、それ以上の人間の人生を支える立場に、我々がつけると思っているのか。

勿論、この家に選ばれることは最重要条件だ。
何故なら、選ばれなければ、そもそも生き残ることすら出来ないから。だが、選ばれたところでその才能がなければ、運命ではなく、人に、鬼に始末されるだけ。

相馬は運命に選ばれ、彼らの上に立つだけの存在。
一介の、自身の家すら完璧に掌握出来ないものが、なんて夢を見ているのか。

「……陽向さん、顔」

相馬は、面白い話を聞く少年のように楽しそうだ。
楽しそうに笑いながら指摘されるから、怒りを持つこちらの力が抜けてしまう。

「楽しそうね?相馬」

そんな相馬を見て、流石の沙耶も不思議顔。

「ああ、面白いよ」

「どうして?」

「だって、俺を普通の人間として見てるってことだろ?」

相馬はそう言いながら、夏鶴たちを見て。

「普通の人間としてしか、表からは認識できない。そうなるように振舞っているからこそ、そう見られてる実感を得られて嬉しいんだ。─ああ、でも、彼らは俺が馬鹿にされた程度で、本気で怒るほどの関係値はまだ築けていないから……恐らくな、あいつは健斗さんを侮ったんだと思うぞ」

相馬の言葉に、夏鶴たちが反応を示す。
─どうやら、図星のようである。