「春馬さまの心が限界を迎え、御園家を出る時は、すごく寂しかったことを覚えています。長く、守ってくださった御園家に対する愛着だと思いました。それ以上に、壊れかけた春馬さまを救いたくて、家を出たわけですが」
朝霧は目を伏せて、その目を、片手で覆った。
「……それからすぐですね、和子さまが身罷られたのは。その日、その瞬間、私は呼吸ができなくなりました。涙が溢れ、視界が暗くなりました。心臓が痛くなって……恐らく、私も近い血縁に、御園直系がいますから、その影響でしょうね。世界が暗くなったんです。たったひとり、御園和子さまが、この世界からいなくなっただけで」
苦しみ、嘆き、最愛のいない世界を経験することは避けられない、御園家の定め。
最愛を亡くしてすぐに息を引き取ることはできず、人生の終幕を飾る為、少し生き延びさせられる。
残酷な定め、避けられない運命。
「……そこで、気付きました。自分は自分の気持ちを消す必要なんてなくて、自分がいたことで、あの方は狂ってしまったのだと」
「でも、朝霧は一度、母さんに言い寄られたんでしょう。その時、母さんが好きだったなら、手を取ればよかったんじゃないの。どうして、遠慮したの」
その結末だと、水樹も氷月も、それどころか、兄さんたちや姉さんも産まれてこない。
でも、それをわかった上で、過去は変えられないのだから、と、氷月が問うのは、俺達が生きてきたこれまでに理由を付けるためだ。
愛の結晶でもなんでもない自分たちの、存在意義を。
「御法度でしたので」
「……はぁ、また変なお家ルール?」
「そばに居たかったんです。皆様の……彼らのそばにいて、気が抜ける時間が大切だった」
けど、それを彼の父親は、前朝霧当主は許さなかった。
厳しい教育や折檻は当たり前で育った朝霧にとって、母さんの手を取ることは重罪だったのだ。
そばに居るために、母さんを振った。
─それが、あんな結末を迎えるとも知らずに。
「……番の重要性はよく分かっている。そのうえで残酷なことを言うけど。朝霧、別に俺達は母さんにたいした感情は無いよ。気付いたら亡くなってた、それだけ」
恋しい、なんて感情もない。
生まれつき自分達に備わっていないとかではなくて、周囲が似たようなものをくれたから。あと、単純に、双子だから、他人よりもそばに居る片割れだったから。
「幸せになってよかったんだよ。父さんだけじゃなくて、朝霧もさあ……まぁ、何を言っても、後の祭りだけどね。総一郎兄さんが動いたのって、希雨が理由だよね」
「……はい」
「ん。じゃあ、朝霧は久遠兄さんの番である希雨を助ける方法、それを見つけ出して実行して。……謝罪が必要かどうかは聞かないと知らないけどさ、謝るなら、相馬兄さんに謝ってよ。あと、京子姉さん。あのふたりがずっと、御園家を最前線で支え続けているんだから」
父さんも捕まったなら、兄さん達の前に一度でも現れるのなら、首根っこを捕まえなきゃ。
あの人を逃がしてはおけない。

