「……あの方が、優しく不器用だということは聞き及んでいるでしょう。巻き込みたくないのですよ。本当の番だからこそ。自分の不幸に、自分の不器用さに、自分の弱さに」
「……」
御園家には居ない、珍しいタイプ。
……御園春馬は、そういう人だった。
優しすぎて、あの家の中で生きることは向いてない人。
そういう評価を受けていた。けど、実際は狡猾な面があることを、水樹たちは知っていた。
その当たり前の衝動を、あの人は受け入れられない。
だから、いつまでも自分自身に苦しみ続けている。
(大体、抗えるはずがないのだ。……総一郎兄さんから始まった、あの人が自分の弱さだと結論づける一連の責任は全て、あらゆる手を使って、父さんの意識を奪ったあの母親にある。狂ってしまって、物事の善悪もわからなくなって)
─だから、御園春馬は被害者だ。
だが、だからといって、今のやり方は認められない。
自分は悪くないのだと言うならば、それでいい。
事実だからだ。しかし、どちらも認められず、宙ぶらりんな、不安定な足元で苦しみ続ける道を選んでいる、優柔不断さが気に入らない。
今更、親が恋しくて泣いたりなんてしない。そんな感情はとうの昔に消え失せたのだから、捨てたいのならば、忘れたいのならば、あの人は全てを忘れ、全てを捨てて、外の世界で生きていくべきなのだ。
「……総一郎さまにはお話しましたが」
「?、何」
「和子様を殺したのは、私です」
「……」
これは間違いなく、物理的な話ではない。
だって、あの人は自分で首を─……あの時点で、彼らは御園家にはいなかった。
「─私が、御園和子の番でした」
淡々と告げられた、揉まれて消えた真実。
「それで?」
氷月が促すと、彼は。
「私にとって、彼女は可愛い妹同然でした。当時、私は次期当主であった陽希さまにお仕えしており、彼女はいつも、陽希様に駆け寄ってきていました」
唯一の朝霧家後継者。それだけで幼い頃から、重責を背負っていた彼は陽希伯父さんの言葉で、父さんや母さん達と遊ぶようになったらしい。
『子どもは遊ぶに限る。時折、鍛錬すれば良い』
伯父が言いそうなことである。そうやって、朝霧の心を守っていたのだろう。
「春馬さまが、和子さまに恋をした時も……和子さまが、陽希さまに恋をした時も、はっきりと覚えています」
元々、感情表現が苦手だった朝霧。家庭環境の影響か、父さんや母さんと遊んでいる時だけ、少しは笑えるようになっていくほど、彼の心はズタズタだったという。
「だから、私自身、最期まで気づかなかったんです。陽希さまが奥様を迎えられ、苦しむ和子さまに春馬様と寄り添い、春馬さまに和子さまが執着していく姿も見ていました。何もしてあげられず、総一郎さまの一件ときは……心から、自分の無力さを感じました」
学業を大切にする方針の、御園家。
そんな家で守られていた朝霧は勿論、学校に通う。
件の件が行われていたのは、昼頃。
丁度、朝霧が学校で留守にしている時間帯である。

