April〜恋に落ちる時〜

「はい。先月、ようやくこのカフェをオープンさせることができました。まだまだ慣れないことばかりですが、精一杯頑張ります」

女性は穏やかな笑みを浮かべながら言う。その表情は、どこかゆったりとした雰囲気のこのカフェによく合っていた。桜士は口を開く。

「僕、実は今日から仕事の都合で三重県に住むことになったんです。まだ新社会人になったばかりなんですけどね」

「そうなんですか！どちらから？」

「神奈川の横浜です」

「横浜といえば、中華街有名なところですよね〜」

女性が楽しそうに話す。それからしばらく、横浜と三重県の有名なところについて話をした。しばらく話した後、女性が「あっ！」と声を上げる。

「嫌やわ、私ったら。お話に夢中になって申し訳ないです。これじゃあ、いつまで経ってもメニュー決まらんやんか。本当に申し訳ないです」

時々、敬語が抜けて方言が飛び出している。これが三重県の言葉なのか、と桜士は何故か感激を覚えながらメニューを開いた。胸が高鳴って苦しい。初めて会った人だというのに、可愛らしいと思ってしまう自分がいる。

「いえ、大丈夫ですよ。よかったらおすすめを教えてもらえませんか？」

「ありがとうございます！私のおすすめはーーー」