三重県にはどんなカフェがあるのだろうか。胸を弾ませながら路地を進んでいく。路地の突き当たりにそのカフェはあった。どこかレトロな雰囲気のある木造の建物である。

桜士がカフェのドアを開けると、カランコロンと入り口に取り付けられたベルが音を立てる。すると「いらっしゃいませ」と犬のイラストが描かれたエプロンをつけた女性が笑顔で言う。その女性を見た刹那、桜士の胸が高鳴った。

長い黒髪をポニーテールにし、耳には桜のピアスが付けられて揺れている。メイクは薄め。清楚系と言う言葉が似合う女性だ。

「お一人様ですか？」

女性に訊ねられ、桜士は「はい」と頷く。女性は「お好きな席にどうぞ」と言った。店内には桜士以外誰もいない。桜士はカウンター席に座った。

店内のテーブルや椅子も木製だった。壁際には大きな本棚が置かれ、そこにはたくさんの小説が置かれている。部屋の奥には暖炉があった。冬はあの暖炉で室内を温めるのだろう。

「どうぞ、お冷やです。ご注文がお決まりになりましたら、こちらのベルでお呼びください」

女性がお冷やを置いて下がろうとする。桜士は咄嗟に「店長さんなんですか？」と話しかけていた。彼女と何でもいいから話したかったのだ。