友達からの質問を樹里はのらりくらりと交わしたが、律は絶対にイケメンで樹里と同じようにクラスで目立つ人なんだと思った。そしてこの恋を捨てようとしたものの、どうしてもできなかったのだ。

「ハァ……」

ため息を吐きながら家のドアを開ける。すると、玄関に母のものではないパンプスを見つけた。リビングに入ると、律の姉である詩(うた)がワインを飲みながらスマホを見ていた。

「姉ちゃん!今日、帰って来るって言ってたっけ?」

詩は律の七歳上で社会人だ。会社近くのマンションに普段は住んでいる。律が声をかけると、詩は気怠そうに律の方を向いた。

「何よ〜。あたしが帰って来ちゃダメなの〜?」

「いや、そうは言ってないけど」

「それより顔しょぼくれてんな〜。失恋したのか〜?」

詩が近付いてきて、律を抱き締めて頭を撫で回す。律は「やめてよ!」と言って詩の腕から逃げ出そうとするものの、幼い頃から空手などの格闘技をしていて体格のいい姉には勝てなかった。

「おうおう、このお姉ちゃんに話してみな?ん?今なら大サービスで一晩中慰めてやるぞ〜」

「一晩中はいらないよ。俺が失恋したことには変わりはないけどさ」