「さやかちゃん、珠莉ちゃん。一人で開けるの大変だから、申し訳ないんだけど手伝ってもらっていいかな?」
愛美は親友二人にお願いした。この日が週末で、三人とも部活がない日でよかったと思う。
「はいはい、よくってよ」
「オッケー☆ 任せなさい」
三人で手分けして、大小合わせて六つある包みを開けていく。
一番大きな箱からは、シックなデザインの大人っぽいワインレッドのカクテルドレスと一通の手紙が出てきた。
「『相川愛美様。メリークリスマス!……』」
愛美が声に出して読み始めた手紙には、こう書かれていた。いつもと同じ、パソコンで書かれた秘書の久留島さんからの手紙である。
****
『相川愛美様。
Merry Christmas! 今年も、ボスからのクリスマスプレゼントをお送り致します。
今年はあなたからリクエストがあったそうで、ボスもあなたにお似合いになりそうな品々を一生懸命選びました。喜んでいただければ幸いでございます。
これらの品をお召しになり、楽しいクリスマスパーティーをお過ごし下さいませ。
久留島栄吉 』
****
「おじさま、わたしのために一生懸命悩んでくれたんだって」
「へえ……。よかったじゃん、愛美! アンタ愛されてるね」
「うん」
保護者としても、恋人としても、〝彼〟は愛美のことを本当に大事に思ってくれていると分かる。
「――あら、このドレス、ステキじゃない? おじさまはセンスがよくていらっしゃるわ」
珠莉が愛美に広げて見せたのは、オーバルネックで七分袖のワインレッドのドレス。丈は膝丈で、花の模様が編み込まれた袖はバルーン仕立てで透け感のあるレース生地になっている。
ウエストではなく胸の下で切り替えが入ったデザインで、エレガントすぎず、それでいて子供っぽすぎない。小柄な愛美にはよく似合いそうだ。
「あっ、こっちは靴と……黒のストッキングだよ」
「あら、それ! 有名ブランドの高級なストッキングよ。私も愛用してるのよ」
「えっ、そうなの? おじさま、そんなものにまで気を遣ってくれたんだ」
ストッキングにもブランドものがあるなんて、愛美はまったく知らなかった。
確かに、コンビニなどでも買えるようなストッキングとは、肌触りが全然違う。それでいて丈夫そうである。
靴もハイブランドのもののようで、上品なダークレッドのパンプス。ヒールは少し高め。これくらいの高さだったら、愛美も履くのは怖くない。
「こっちはアクセサリーかな? ……わあ、可愛いネックレス☆」
愛美が開けた細長い箱には、ハート型のシンプルなトップがついたプラチナのネックレスが入っていた。彼女はこれ見よがしな大きなアクセサリーが好きではないので、これくらい控えめなものでよかったと思う。
あと二つの包みは、クリーム色のクラッチバッグと白いファーの襟巻きだった。
「これでパーティーの準備はバッチリね、愛美さん」
「うん! スゴいなぁ、ホントに全部そろっちゃうなんて。その分、おじさまには思いっきりお金使わせちゃったみたいだけど」
〝あしながおじさん〟がここまで大盤振る舞いしてくれたのは、愛美の学費が免除になって、学校に送金する分が浮いたからかもしれないけれど。このプレゼントに使った分だけで、その金額はゆうに超えていそうだ。
「でも、きっとおじさまは愛美さんに喜んでもらいたくて、お買いになったのよ。だからあなたが責任を感じる必要はなくてよ」
「うん……。そっか、そうだね」
「そうだよ、愛美! さっそくお礼の手紙書いたげなよ。おじさま、もっと喜んでくれるよ」
「うん、そうする」
たとえ〝あしながおじさん〟の正体が純也さんでもそうじゃなくても、二人の言うことは間違っていないと愛美も思った。
だって彼は、〈わかば園〉の子供たちのためにも色々と考えて行動してくれていたから。それはきっと、今も続いているんだろう。
だから、愛美からの「ありがとう」が彼にとって、今は一番のやり甲斐になると思った。
****
『拝啓、あしながおじさん。
秘書さんが送って下さったおじさまからのクリスマスプレゼントが、今日届きました。それも、こんなにドッサリ! まさか本当に一式そろえてくれるなんて思ってませんでした!
ドレスも靴も、ネックレスもクラッチバッグもファーの襟巻きも、どれもステキです。おじさまのセンスのよさに、わたしは脱帽してます。
さらにはストッキングまで高級ブランド品なんて! わたし、珠莉ちゃんから聞くまでは、そんなものがあるなんて知らなかった……。
これなら、珠莉ちゃんのお屋敷のパーティーに出ても気後れしなくて済みそう。「施設の出だからセンスがない」なんて、セレブ臭プンプンの連中には絶対に言わせないから!
本当はね、おじさま。わたしは今回のおねだりにすごく申し訳ない気持ちになってたんです。だって、奨学金で免除された学費の分以上に、おじさまはお金をかけてくれたと思うから。
でも、珠莉ちゃんとさやかちゃんが言ってくれたの。「おじさまは、わたしに喜んでもらいたくて大金を使ったんだから、責任を感じなくていい」って。
おじさま、本当にそうなの? わたしは素直にこの厚意を受け取っていいの?
優しいおじさま、今回はわたしのワガママを聞いてくれて、本当にありがとう。ちょっと甘やかしすぎかな、とは思いますけど……。
愛美は親友二人にお願いした。この日が週末で、三人とも部活がない日でよかったと思う。
「はいはい、よくってよ」
「オッケー☆ 任せなさい」
三人で手分けして、大小合わせて六つある包みを開けていく。
一番大きな箱からは、シックなデザインの大人っぽいワインレッドのカクテルドレスと一通の手紙が出てきた。
「『相川愛美様。メリークリスマス!……』」
愛美が声に出して読み始めた手紙には、こう書かれていた。いつもと同じ、パソコンで書かれた秘書の久留島さんからの手紙である。
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『相川愛美様。
Merry Christmas! 今年も、ボスからのクリスマスプレゼントをお送り致します。
今年はあなたからリクエストがあったそうで、ボスもあなたにお似合いになりそうな品々を一生懸命選びました。喜んでいただければ幸いでございます。
これらの品をお召しになり、楽しいクリスマスパーティーをお過ごし下さいませ。
久留島栄吉 』
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「おじさま、わたしのために一生懸命悩んでくれたんだって」
「へえ……。よかったじゃん、愛美! アンタ愛されてるね」
「うん」
保護者としても、恋人としても、〝彼〟は愛美のことを本当に大事に思ってくれていると分かる。
「――あら、このドレス、ステキじゃない? おじさまはセンスがよくていらっしゃるわ」
珠莉が愛美に広げて見せたのは、オーバルネックで七分袖のワインレッドのドレス。丈は膝丈で、花の模様が編み込まれた袖はバルーン仕立てで透け感のあるレース生地になっている。
ウエストではなく胸の下で切り替えが入ったデザインで、エレガントすぎず、それでいて子供っぽすぎない。小柄な愛美にはよく似合いそうだ。
「あっ、こっちは靴と……黒のストッキングだよ」
「あら、それ! 有名ブランドの高級なストッキングよ。私も愛用してるのよ」
「えっ、そうなの? おじさま、そんなものにまで気を遣ってくれたんだ」
ストッキングにもブランドものがあるなんて、愛美はまったく知らなかった。
確かに、コンビニなどでも買えるようなストッキングとは、肌触りが全然違う。それでいて丈夫そうである。
靴もハイブランドのもののようで、上品なダークレッドのパンプス。ヒールは少し高め。これくらいの高さだったら、愛美も履くのは怖くない。
「こっちはアクセサリーかな? ……わあ、可愛いネックレス☆」
愛美が開けた細長い箱には、ハート型のシンプルなトップがついたプラチナのネックレスが入っていた。彼女はこれ見よがしな大きなアクセサリーが好きではないので、これくらい控えめなものでよかったと思う。
あと二つの包みは、クリーム色のクラッチバッグと白いファーの襟巻きだった。
「これでパーティーの準備はバッチリね、愛美さん」
「うん! スゴいなぁ、ホントに全部そろっちゃうなんて。その分、おじさまには思いっきりお金使わせちゃったみたいだけど」
〝あしながおじさん〟がここまで大盤振る舞いしてくれたのは、愛美の学費が免除になって、学校に送金する分が浮いたからかもしれないけれど。このプレゼントに使った分だけで、その金額はゆうに超えていそうだ。
「でも、きっとおじさまは愛美さんに喜んでもらいたくて、お買いになったのよ。だからあなたが責任を感じる必要はなくてよ」
「うん……。そっか、そうだね」
「そうだよ、愛美! さっそくお礼の手紙書いたげなよ。おじさま、もっと喜んでくれるよ」
「うん、そうする」
たとえ〝あしながおじさん〟の正体が純也さんでもそうじゃなくても、二人の言うことは間違っていないと愛美も思った。
だって彼は、〈わかば園〉の子供たちのためにも色々と考えて行動してくれていたから。それはきっと、今も続いているんだろう。
だから、愛美からの「ありがとう」が彼にとって、今は一番のやり甲斐になると思った。
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『拝啓、あしながおじさん。
秘書さんが送って下さったおじさまからのクリスマスプレゼントが、今日届きました。それも、こんなにドッサリ! まさか本当に一式そろえてくれるなんて思ってませんでした!
ドレスも靴も、ネックレスもクラッチバッグもファーの襟巻きも、どれもステキです。おじさまのセンスのよさに、わたしは脱帽してます。
さらにはストッキングまで高級ブランド品なんて! わたし、珠莉ちゃんから聞くまでは、そんなものがあるなんて知らなかった……。
これなら、珠莉ちゃんのお屋敷のパーティーに出ても気後れしなくて済みそう。「施設の出だからセンスがない」なんて、セレブ臭プンプンの連中には絶対に言わせないから!
本当はね、おじさま。わたしは今回のおねだりにすごく申し訳ない気持ちになってたんです。だって、奨学金で免除された学費の分以上に、おじさまはお金をかけてくれたと思うから。
でも、珠莉ちゃんとさやかちゃんが言ってくれたの。「おじさまは、わたしに喜んでもらいたくて大金を使ったんだから、責任を感じなくていい」って。
おじさま、本当にそうなの? わたしは素直にこの厚意を受け取っていいの?
優しいおじさま、今回はわたしのワガママを聞いてくれて、本当にありがとう。ちょっと甘やかしすぎかな、とは思いますけど……。



