『まあ、愛美ちゃんを孤立させるようなことだけはしないから。何かあったら僕が盾になってあげるから、安心してよ』
「……うん。じゃあ、失礼します」
電話を切った愛美には、ちょっと不安が残った。
「大丈夫かな……」
親族間の問題は、愛美に解決できるものじゃない。それは純也さん自身が何とかするしかないのだ。
それに、もしも愛美が施設出身だということを、あの家の人たちが悪く言ったら……?
彼はきっと、自分のことをどれだけひどくこき下ろされても何ともないと思う。けれど、自分の大事な人のことをバカにされたらガマンならないんじゃないだろうか。
(まあ、その前にわたしがブチ切れるだろうけど)
愛美はこれまで、自分の育ってきた境遇を恥じたことなんて一度もない。同情されるのもキライだけれど、バカにされるのはその何十倍もキライなのだ。
「――愛美さん、叔父さまは何とおっしゃってたの?」
珠莉の声で、愛美はハッと我に返った。――そうだ。この部屋には珠莉もさやかもいるんだった!
「ああ、うん。わたしが行くなら、たまには実家に帰ってみるよ、って」
「……そう。他には?」
「他の親族とうまくやれるかどうか分からないから、居心地が悪くなったら出ていくかも、って。でも、わたしに何かあったら盾になってくれるらしいよ」
「なるほど。……まあ、叔父さまは元々そういうクールな人だものね。でも、叔父さまがそんなことをおっしゃるようになったなんて。愛美さんのおかげでお変わりになったのかしら」
「え……」
自分が誰かを変えた。まさか、そんな影響力を自身が持っていたなんて! ――愛美は本当に驚いた。
「恋っていうのは、人をここまで強くするものなのね」
「ああ……、そういうことか」
どうやら愛美の力ではなく、恋の魔力とかいうヤツの力らしい。
「――ところで、話変わるんだけど。珠莉ちゃんのお家でもクリスマスってパーティーとかするの?」
さやかの家はアットホームで楽しくて、愛美も居心地がよかった。クリスマスパーティーも手作り感満載で、参加した子供たちもすごく楽しんでくれていた。
「ええ、もちろん。ウチは盛大に行いますわよ。社交界の面々、特に政財界の大物も多数ご招待してますし、ドレスコードもキチっとしてますの」
「ドレスコード……、ってどんなの?」
辺唐院家のパーティーは、愛美が思っていた以上にお堅い集まりのようで、愛美はちょっと萎縮してしまう。
「そうねぇ……。男性はスーツにネクタイ・ネッカチーフ、もしくはタキシード。女性はカクテルドレスか和装。まあ、そんなところかしら」
「ドレスって……、わたしそんなの持ってないよ」
愛美は絶望的な気持ちになった。
(スゴい……、セレブにはそれが普通なんだ)
彼女が持っている服で一番上等なのは、オシャレ着として買ったワンピースだ。それでもパーティー向きではない。
だからといって、ドレスなんて女子高生のお小遣いで簡単に買えるようなものでもないし……。
「あら。でしたら、おじさまにおねだりしてみたらいいじゃない。たまには甘えて差し上げないと、いじけてしまうわよ?」
「あ、そっか! その手があった! 珠莉ちゃん、ありがと」
自立心の強い愛美は、これまで〝あしながおじさん〟に何かをねだったことがない。ねだらなくても、自分の経済力で何とかできることはしてきたから。
でも、今回ばかりはムリだ。いつもはおねだりなんてしない愛美からの頼みとあれば、〝あしながおじさん〟もよほどのことだと思って聞いてくれるに違いない。
そしてその正体が純也さんなら、なおのこと断るはずがない。大切な愛美のためなら、何でもしてあげたいと思っているだろうから。
「どうせならドレスだけじゃなくて、靴とかアクセサリーとか、バッグなんかもおねだりしちゃいなさいよ。一式そろえてもらえばいいわ」
「……珠莉ちゃん、オニ?」
愛美はこの珠莉という人が怖くなった。実の叔父が相手だからって、これだけ好き勝手いえるなんて、なんという姪だろうか。
ドレスだけでも結構な出費になるだろうに、靴やアクセサリーまで……。いくら彼がお金持ちだからって、さすがに彼のお財布事情が心配になってくる。
「まあ、いいじゃない。あなたのためなら、これくらいの投資はおじさまにとってはどうってことありませんわよ、きっと」
「そ……うかなぁ」
「ええ。叔父さまはそういう方なのよ。だから、大丈夫よ」
「……うん、分かった」
愛美が「夕食から戻ってきたら、さっそくおじさまに手紙書くね」と言ったところで、さやかが珠莉に茶々を入れた。
「アンタさぁ、いっつもそうやって純也さんを困らせてたんじゃないのー?」
「えっ? 何のことですの?」
「欲しいものとかあった時に、叔父さまにねだりまくってたんじゃないの? そりゃウザがられるわ」
当初、純也さんが珠莉のことを苦手にしていたと愛美から聞いたことを、さやかは覚えていたのだ。
姪がこんな子だったら、さやかが叔父や叔母の立場でもウザいと思うだろう。
「あら、そんなことありませんわ。……まあ、純也叔父さまが私のことをそう思われていたとしても、愛美さんにはきっとお優しいはずよ」
姪の珠莉相手ならともかく、恋人である愛美のことを彼が冷たくあしらったりはしないはずだ。
「……うん。じゃあ、失礼します」
電話を切った愛美には、ちょっと不安が残った。
「大丈夫かな……」
親族間の問題は、愛美に解決できるものじゃない。それは純也さん自身が何とかするしかないのだ。
それに、もしも愛美が施設出身だということを、あの家の人たちが悪く言ったら……?
彼はきっと、自分のことをどれだけひどくこき下ろされても何ともないと思う。けれど、自分の大事な人のことをバカにされたらガマンならないんじゃないだろうか。
(まあ、その前にわたしがブチ切れるだろうけど)
愛美はこれまで、自分の育ってきた境遇を恥じたことなんて一度もない。同情されるのもキライだけれど、バカにされるのはその何十倍もキライなのだ。
「――愛美さん、叔父さまは何とおっしゃってたの?」
珠莉の声で、愛美はハッと我に返った。――そうだ。この部屋には珠莉もさやかもいるんだった!
「ああ、うん。わたしが行くなら、たまには実家に帰ってみるよ、って」
「……そう。他には?」
「他の親族とうまくやれるかどうか分からないから、居心地が悪くなったら出ていくかも、って。でも、わたしに何かあったら盾になってくれるらしいよ」
「なるほど。……まあ、叔父さまは元々そういうクールな人だものね。でも、叔父さまがそんなことをおっしゃるようになったなんて。愛美さんのおかげでお変わりになったのかしら」
「え……」
自分が誰かを変えた。まさか、そんな影響力を自身が持っていたなんて! ――愛美は本当に驚いた。
「恋っていうのは、人をここまで強くするものなのね」
「ああ……、そういうことか」
どうやら愛美の力ではなく、恋の魔力とかいうヤツの力らしい。
「――ところで、話変わるんだけど。珠莉ちゃんのお家でもクリスマスってパーティーとかするの?」
さやかの家はアットホームで楽しくて、愛美も居心地がよかった。クリスマスパーティーも手作り感満載で、参加した子供たちもすごく楽しんでくれていた。
「ええ、もちろん。ウチは盛大に行いますわよ。社交界の面々、特に政財界の大物も多数ご招待してますし、ドレスコードもキチっとしてますの」
「ドレスコード……、ってどんなの?」
辺唐院家のパーティーは、愛美が思っていた以上にお堅い集まりのようで、愛美はちょっと萎縮してしまう。
「そうねぇ……。男性はスーツにネクタイ・ネッカチーフ、もしくはタキシード。女性はカクテルドレスか和装。まあ、そんなところかしら」
「ドレスって……、わたしそんなの持ってないよ」
愛美は絶望的な気持ちになった。
(スゴい……、セレブにはそれが普通なんだ)
彼女が持っている服で一番上等なのは、オシャレ着として買ったワンピースだ。それでもパーティー向きではない。
だからといって、ドレスなんて女子高生のお小遣いで簡単に買えるようなものでもないし……。
「あら。でしたら、おじさまにおねだりしてみたらいいじゃない。たまには甘えて差し上げないと、いじけてしまうわよ?」
「あ、そっか! その手があった! 珠莉ちゃん、ありがと」
自立心の強い愛美は、これまで〝あしながおじさん〟に何かをねだったことがない。ねだらなくても、自分の経済力で何とかできることはしてきたから。
でも、今回ばかりはムリだ。いつもはおねだりなんてしない愛美からの頼みとあれば、〝あしながおじさん〟もよほどのことだと思って聞いてくれるに違いない。
そしてその正体が純也さんなら、なおのこと断るはずがない。大切な愛美のためなら、何でもしてあげたいと思っているだろうから。
「どうせならドレスだけじゃなくて、靴とかアクセサリーとか、バッグなんかもおねだりしちゃいなさいよ。一式そろえてもらえばいいわ」
「……珠莉ちゃん、オニ?」
愛美はこの珠莉という人が怖くなった。実の叔父が相手だからって、これだけ好き勝手いえるなんて、なんという姪だろうか。
ドレスだけでも結構な出費になるだろうに、靴やアクセサリーまで……。いくら彼がお金持ちだからって、さすがに彼のお財布事情が心配になってくる。
「まあ、いいじゃない。あなたのためなら、これくらいの投資はおじさまにとってはどうってことありませんわよ、きっと」
「そ……うかなぁ」
「ええ。叔父さまはそういう方なのよ。だから、大丈夫よ」
「……うん、分かった」
愛美が「夕食から戻ってきたら、さっそくおじさまに手紙書くね」と言ったところで、さやかが珠莉に茶々を入れた。
「アンタさぁ、いっつもそうやって純也さんを困らせてたんじゃないのー?」
「えっ? 何のことですの?」
「欲しいものとかあった時に、叔父さまにねだりまくってたんじゃないの? そりゃウザがられるわ」
当初、純也さんが珠莉のことを苦手にしていたと愛美から聞いたことを、さやかは覚えていたのだ。
姪がこんな子だったら、さやかが叔父や叔母の立場でもウザいと思うだろう。
「あら、そんなことありませんわ。……まあ、純也叔父さまが私のことをそう思われていたとしても、愛美さんにはきっとお優しいはずよ」
姪の珠莉相手ならともかく、恋人である愛美のことを彼が冷たくあしらったりはしないはずだ。



