「純也さんだってスゴいじゃないですか。まるで大谷選手みたい」
愛美は彼のことを、メジャーリーグで大活躍している日本人選手みたいだと感心した。
「それは褒めすぎだって、愛美ちゃん。彼の方が僕より身長も高いし、体型もガッシリしてるじゃないか」
「そうだけど、わたしには純也さんも彼とおんなじくらいカッコよく見えるから――、あれ?」
そう言った次の瞬間、愛美は目眩を起こした。
「大丈夫か、愛美ちゃん!」
倒れかけた彼女を、慌てて駆け付けた純也さんが抱き留めた。
「うん……、ありがとう。大丈夫。ちょっとクラーッとなっただけ」
「軽い熱中症かなぁ。ちょっと日陰で休憩しようか」
純也さんに支えてもらいながら、愛美は涼しい日陰へと移動した。
「――はい、これで水分補給しなよ。よく冷えてるから保冷剤代わりにもなるしね」
「あ……、ありがと」
愛美は冷たいスポーツドリンクのペットボトルを受け取ると、まずは火照った首筋に当てがった。それだけで、体にこもった熱と汗がスッと引いていく。
そしてキャップを開け、ゴクゴク飲んだ。
「ゴメンねー、愛美ちゃん! 目眩起こす前に、大人の俺が気づいてあげるべきだったよな」
「そんなことないよ。こんな暑い日にキャッチボールしようなんて言い出したわたしが悪いんだもん。っていうか純也さん、久しぶりに『俺』って言ったよね」
水分補給をして熱も冷めた愛美は、そういう話もできるくらい元気を取り戻していた。
「……えっ? あれ、そうだっけ?」
「うん、そうだよー。多分、珠莉ちゃんたちと一緒に原宿に行った日以来じゃないかな」
あの日以降、純也さんは「僕」としか言わなくなっていた。愛美と二人っきりだから、彼は素の自分を出せたのかもしれない。
「そっか……。いや、珠莉の前ではよく『俺』って使うんだけどな。愛美ちゃんが俺に敬語なしで話せるようになったのと同じかな、理由は」
それは年の差を超えて、心が通じ合ったからなのかなと愛美は思った。
「ね、純也さん。これからはもっともっと『俺』って言ってほしいな。珠莉ちゃんの前だけじゃなくて、わたしと一緒の時にも」
珠莉は彼の姪だから、いやでも素が出てしまうのかもしれない。でも、これからは〝彼女〟になった愛美にも飾らない彼自身を見せてほしい。
「うん、分かった。まあ、できる限り頑張ってみるよ」
「えーー? それってどっちなのー?」
愛美はブーイングしながらも、彼と一緒に過ごせる時間がすごく愛おしく感じていた。
「――これ以上外にいたら、俺まで熱中症になりそうだな。もうじき昼食の時間だし、そろそろ家の中に戻ろうか。午後は屋根裏部屋で読書でもして過ごすか。愛美ちゃんの宿題を見てあげてもいいし」
「残念でした。宿題はもう終わっちゃってるんで」
(……っていうか、純也さんがおじさまなら知ってるはずだよね。わたしが勉強できる子だって)
内心ではそう思いながら、愛美は澄まし顔で純也さんにそう言ってのけた。
****
『拝啓、あしながおじさん。
今年の夏も毎日暑いですね。お元気ですか? わたしは元気です。ちょっと熱中症にはなりかけましたけど……。
今日の午前中、千藤さんのお家の庭で、純也さんと二人でキャッチボールをしました。そのキッカケは、彼が「屋根裏部屋を久しぶりに見たい」って言ったからなんですけど。
おじさまは憶えてますか? 去年の夏休み、わたしが「この家の屋根裏部屋に野球ボールとグローブが置いてある」って手紙に書いたのを。実はそのグローブ、大小二つあったんです。
純也さんは昔、このお家に来てた頃によくキャッチボールをしてたんだそうです。相手はなんと多恵さん! 善三さんともやってたそうなんですけど。
何でも、多恵さんは学生時代、ソフトボール部に所属してたらしいんです。純也さん曰く、多恵さんも昔はスラッとしてて、スポーツ万能だったんだとか。今はあんなにふくよかな多恵さんがですよ? おじさま、信じられますか?
それはともかく。今日は朝からよく晴れてたので、わたしから「キャッチボールしよう」って純也さんに言いました。
日本人メジャーリーガーの大谷翔平選手並みの純也さんの投球をキャッチしたら、彼はすごく驚いてました。そして、わたしが投げ返した球の速さにも。「なかなかいい球投げるね」って。
〈わかば園〉にいた頃、わたしはよく弟たちの球技の練習に付き合ってあげてました。多分、それで上手くなったんじゃないかな。だからわたし、野球だけじゃなくてサッカーとかバスケットボールとか、球技全般が得意なんですよ、実は。って、おじさまはもうご存じですよね。
でも、ピーカンで暑い中ずっと屋外にいたので、わたしがちょっと具合が悪くなっちゃって。そこでキャッチボールは打ち切りになっちゃいました。
誘ったわたしの自業自得なのに、純也さんが責任感じちゃって。「大人の自分が先に気づいてあげるべきだったね」って。彼ってホントに優しい人!
そんなわけで、午後からは二人で屋根裏部屋で過ごしました。読書をしたり、彼にアドバイスをもらいながら新作の小説の下書きを書いたりして。途中、一度キッチンまで下りて行った純也さんが、多恵さんがわたしのために作ってくれた冷たいスムージーを持ってきてくれました。「具合の悪い時は、ちゃんと栄養を摂った方がいいから」って。
淡いオレンジ色のスムージーは、カボチャやニンジン、パプリカなどの野菜がベースになっていて、桃やバナナなどのフルーツも入っていて、それを冷たい牛乳と氷で割ったもので、甘くてスッキリした味で飲みやすかったです。
純也さんはわたしと二人でいる時、一人称が「僕」から「俺」になります。それは珠莉ちゃんと同じように、わたしにも心を許してくれたからだそうです。そしてわたしも、彼相手だと敬語抜きで話すことができるようになりました。
愛美は彼のことを、メジャーリーグで大活躍している日本人選手みたいだと感心した。
「それは褒めすぎだって、愛美ちゃん。彼の方が僕より身長も高いし、体型もガッシリしてるじゃないか」
「そうだけど、わたしには純也さんも彼とおんなじくらいカッコよく見えるから――、あれ?」
そう言った次の瞬間、愛美は目眩を起こした。
「大丈夫か、愛美ちゃん!」
倒れかけた彼女を、慌てて駆け付けた純也さんが抱き留めた。
「うん……、ありがとう。大丈夫。ちょっとクラーッとなっただけ」
「軽い熱中症かなぁ。ちょっと日陰で休憩しようか」
純也さんに支えてもらいながら、愛美は涼しい日陰へと移動した。
「――はい、これで水分補給しなよ。よく冷えてるから保冷剤代わりにもなるしね」
「あ……、ありがと」
愛美は冷たいスポーツドリンクのペットボトルを受け取ると、まずは火照った首筋に当てがった。それだけで、体にこもった熱と汗がスッと引いていく。
そしてキャップを開け、ゴクゴク飲んだ。
「ゴメンねー、愛美ちゃん! 目眩起こす前に、大人の俺が気づいてあげるべきだったよな」
「そんなことないよ。こんな暑い日にキャッチボールしようなんて言い出したわたしが悪いんだもん。っていうか純也さん、久しぶりに『俺』って言ったよね」
水分補給をして熱も冷めた愛美は、そういう話もできるくらい元気を取り戻していた。
「……えっ? あれ、そうだっけ?」
「うん、そうだよー。多分、珠莉ちゃんたちと一緒に原宿に行った日以来じゃないかな」
あの日以降、純也さんは「僕」としか言わなくなっていた。愛美と二人っきりだから、彼は素の自分を出せたのかもしれない。
「そっか……。いや、珠莉の前ではよく『俺』って使うんだけどな。愛美ちゃんが俺に敬語なしで話せるようになったのと同じかな、理由は」
それは年の差を超えて、心が通じ合ったからなのかなと愛美は思った。
「ね、純也さん。これからはもっともっと『俺』って言ってほしいな。珠莉ちゃんの前だけじゃなくて、わたしと一緒の時にも」
珠莉は彼の姪だから、いやでも素が出てしまうのかもしれない。でも、これからは〝彼女〟になった愛美にも飾らない彼自身を見せてほしい。
「うん、分かった。まあ、できる限り頑張ってみるよ」
「えーー? それってどっちなのー?」
愛美はブーイングしながらも、彼と一緒に過ごせる時間がすごく愛おしく感じていた。
「――これ以上外にいたら、俺まで熱中症になりそうだな。もうじき昼食の時間だし、そろそろ家の中に戻ろうか。午後は屋根裏部屋で読書でもして過ごすか。愛美ちゃんの宿題を見てあげてもいいし」
「残念でした。宿題はもう終わっちゃってるんで」
(……っていうか、純也さんがおじさまなら知ってるはずだよね。わたしが勉強できる子だって)
内心ではそう思いながら、愛美は澄まし顔で純也さんにそう言ってのけた。
****
『拝啓、あしながおじさん。
今年の夏も毎日暑いですね。お元気ですか? わたしは元気です。ちょっと熱中症にはなりかけましたけど……。
今日の午前中、千藤さんのお家の庭で、純也さんと二人でキャッチボールをしました。そのキッカケは、彼が「屋根裏部屋を久しぶりに見たい」って言ったからなんですけど。
おじさまは憶えてますか? 去年の夏休み、わたしが「この家の屋根裏部屋に野球ボールとグローブが置いてある」って手紙に書いたのを。実はそのグローブ、大小二つあったんです。
純也さんは昔、このお家に来てた頃によくキャッチボールをしてたんだそうです。相手はなんと多恵さん! 善三さんともやってたそうなんですけど。
何でも、多恵さんは学生時代、ソフトボール部に所属してたらしいんです。純也さん曰く、多恵さんも昔はスラッとしてて、スポーツ万能だったんだとか。今はあんなにふくよかな多恵さんがですよ? おじさま、信じられますか?
それはともかく。今日は朝からよく晴れてたので、わたしから「キャッチボールしよう」って純也さんに言いました。
日本人メジャーリーガーの大谷翔平選手並みの純也さんの投球をキャッチしたら、彼はすごく驚いてました。そして、わたしが投げ返した球の速さにも。「なかなかいい球投げるね」って。
〈わかば園〉にいた頃、わたしはよく弟たちの球技の練習に付き合ってあげてました。多分、それで上手くなったんじゃないかな。だからわたし、野球だけじゃなくてサッカーとかバスケットボールとか、球技全般が得意なんですよ、実は。って、おじさまはもうご存じですよね。
でも、ピーカンで暑い中ずっと屋外にいたので、わたしがちょっと具合が悪くなっちゃって。そこでキャッチボールは打ち切りになっちゃいました。
誘ったわたしの自業自得なのに、純也さんが責任感じちゃって。「大人の自分が先に気づいてあげるべきだったね」って。彼ってホントに優しい人!
そんなわけで、午後からは二人で屋根裏部屋で過ごしました。読書をしたり、彼にアドバイスをもらいながら新作の小説の下書きを書いたりして。途中、一度キッチンまで下りて行った純也さんが、多恵さんがわたしのために作ってくれた冷たいスムージーを持ってきてくれました。「具合の悪い時は、ちゃんと栄養を摂った方がいいから」って。
淡いオレンジ色のスムージーは、カボチャやニンジン、パプリカなどの野菜がベースになっていて、桃やバナナなどのフルーツも入っていて、それを冷たい牛乳と氷で割ったもので、甘くてスッキリした味で飲みやすかったです。
純也さんはわたしと二人でいる時、一人称が「僕」から「俺」になります。それは珠莉ちゃんと同じように、わたしにも心を許してくれたからだそうです。そしてわたしも、彼相手だと敬語抜きで話すことができるようになりました。



