――純也さんとの恋が実った夜。愛美は自分の部屋で、スマホのメッセージアプリでさやかにその嬉しい報告をしていた。


『さやかちゃん、わたし今日、純也さんに告白したの!
 そしたら純也さんからも告白されてね、お付き合いすることになったの~~!!!(≧▽≦)』


「……なにコレ。めっちゃノロケてるよ、わたし」

 打ち込んだメッセージを見て、自分で呆れて笑ってしまう。


『っていうか、純也さんはもうわたしと付き合ってるつもりだったって! 
 さやかちゃんの言ってた通りだったよ( ゚Д゚)』


 愛美は続けてこう送信した。二通とも、メッセージにはすぐに既読がついた。

 ――あの後、千藤家への帰り道に、純也さんが自身の想いを愛美に打ち明けてくれた。


   * * * *


『実はね、僕も迷ってたんだ。君に想いを伝えていいものかどうか』

『……えっ? どうしてですか?』

 愛美がその意味を訊ねると、純也さんは苦笑いしながら答えてくれた。

『さっき愛美ちゃんも言った通り、君とは十三歳も年が離れてるし、周りから「ロリコンだ」って思われるのも困るしね。まあ、珠莉の友達だからっていうのもあるけど。――あと、僕としてはもう、君とは付き合ってるつもりでいたし』 

『えぇっ!? いつから!?』

 最後の爆弾発言に、愛美はギョッとした。

『表参道で、連絡先を交換した時から……かな。君は気づいてなかったみたいだけど』

『…………はい。気づかなくてゴメンなさい』

 さやかに言われた通りだった。あれはやっぱり、「付き合ってほしい」という意思表示だったのだ!

『君が謝る必要はないよ。初恋だったんだろ? 気づかないのもムリないから。こんな回りくどい方法を取った僕が悪いんだ。もっとはっきり、自分の気持ちを伝えるべきだったんだよね』

『純也さん……』

『でも、愛美ちゃんの方が(いさぎよ)かったな。自分の気持ちをストレートにぶつけてくれたから』

『そんなこと……。ただ、他に伝え方が分かんなかっただけで』

『いやいや! だからね、僕も腹をくくったんだ。年齢差とか、姪の友達だとかそんなことはもう取っ払って、自分の気持ちに素直になろうって。なまじ恋愛経験が多いと、余計なことばっかり考えちゃうんだよね。だからもう、初めて恋した時の自分に戻ろうって』

 純也さんだってきっと、自分から女性を好きになったことはあるんだろう。それが身を結ばなかったとしても、好きになった時のトキメキはずっと忘れないはず。

『愛美ちゃん、ありがとう。僕の想いを受け止めてくれて。君は、僕がこれまで出会った中で、最高の女の子だよ。君とだったら、純粋に一人の男として恋愛を楽しめる気がするよ』

『はい。わたし、これだけは断言できますから。純也さんの家柄とか財産とか、わたしはまったく興味ないです。わたしが好きになったのは、純也さんご自身ですから!』

 愛美は胸を張って言いきった。
 お金なんて、生活していくのに必要な分さえあればそれで十分。彼は「人並みの生活」ができるように努力している人だ。たとえ将来お金持ちじゃなくなってしまったとしても、彼ならきっと(たくま)しく生きていけるだろう。

 そんな彼女に、純也さんはもう一度「ありがとう」と言った――。


   * * * *


 そんなやり取りを思い出しながら、愛美は幸せを噛みしめていた。
 すると、さやかからメッセージの返信が。


『やったね! 愛美、おめ~~☆\(^o^)/ 
っていうかノロケ? コレ聞かされたあたしはどうしたらいいワケ??(笑)』 


「さやかちゃん……、ゴメン!」

 文面からは、さやかが喜んでいるのか(これは間違いないと思うけれど)怒っているのか、はたまた困っているのか読み取れない。
 でも夏休み返上で寮に残って部活に励んでいる彼女には、ちょっと面白くなかったかも……と思ったり思わなかったり。

「あとで電話した方がいいかも」

 こういう時は文字だけのメッセージよりも、電話で生の反応を聞いた方が分かりやすい。

「――そういえば純也さん、まだ起きてるのかな」

 愛美はスマホで時刻を確認してみた。九時――、まだ寝るのには早い時間だ。
 帰ったら小説を読ませてほしい、と純也さんは言っていた。もしかしたら、起きて待っていてくれているかもしれない。
 辛口の批評はできれば聞きたくないけれど、「彼に自分の原稿を読んでもらえるんだ」という嬉しい気持ちもまぁなくもない。ので。

「緊張するけど、約束だし。早い方がいいもんね」

 愛美は書き上がっている四作分の短編小説の原稿を持って、リラックスウェアのまま部屋を出た。そして、純也さんのいる隣りの部屋のドアをノックする。
「はい?」

「あ……、愛美です。今おジャマして大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。入っておいで」

 純也さんの許可が出たので、愛美は「おジャマしまーす」と言いながら室内へ。
 彼はノートパソコンを開いて、何やら険しい表情をしていたけれど、愛美の顔を見ると笑顔になってパソコンを閉じた。

「ゴメンなさい。お仕事中でした?」

「いや、今終わったところだよ。急ぎの件があったから、メールで指示を出してたんだ。――ところで、どうしたの?」

「小説を読んでもらおうと思って。約束だったから」

 愛美は大事に抱えていた原稿を、彼に見えるように(かか)げて見せた。原稿はひとつの作品ごとにダブルクリップで綴じてあって、一枚ずつ通し番号も振ってある。

「ああ、そうだったね。……ところでさ、女の子がこんな夜に、男の部屋に来るってことがどういう意味か分かってる? しかも、そんな()(ぼう)()な格好で」

「…………えっ?」