――そして、いよいよ七月二十日。今日から夏休みが始まる。
「じゃあさやかちゃん、わたしたちもう行くから。部活頑張ってね☆」
愛美は横浜駅まで、珠莉と一緒に行くことになっている。
「うん、頑張るよ。どこまで進めるか分かんないけどね。……あ、愛美の恋の進展具合も教えてよ」
「……もう! さやかちゃんシュミ悪いよぉ。――分かった。ちゃんと教えるよ」
女の子同士の友情なんて、こんなものじゃないだろうか。からかわれても、やっぱり親友には恋バナを聞いてほしいものなのだ。
「ところで愛美さん。荷物はそれだけですの?」
珠莉は愛美の荷物がスーツケースとスポーツバッグ、それぞれ一つずつしかないことに首を傾げた。
一年前にはこの他に、段ボール箱三つ分の荷物がドッサリあったというのに。
「うん。大きな荷物は先に送っといたの。去年より一箱少ないけどね」
千藤農園にお世話になるのも、今年で二度目。先に荷物が届けば、向こうもあとは愛美本人の到着を待てばいいだけ、ということだ。
「そうでしたの? じゃあ、そろそろ参りましょうか」
「うん。――さやかちゃん、行ってきま~す!」
「行ってら~~! 二人とも、気をつけて。楽しんどいで!」
「「は~い☆」」
――愛美と珠莉の二人は、まず地下鉄で新横浜駅まで出た。
その車内で、愛美は多分初めて珠莉と二人、ゆっくり話す機会に恵まれた。
「そういえば、初めて会った時から思ってたけど。珠莉ちゃんって肌白いよねー」
「まぁね。私、今まで話したことありませんでしたけど、実はモデルになりたいと思ってますの。そのためにスタイル維持だけじゃなく、美白にも気を遣ってますのよ」
愛美は彼女の夢を始めて聞いた。でも、スラリと背が高く、スタイルもいい珠莉らしい夢だと思う。
「へえー、そうだったんだ。珠莉ちゃんならなれるよ、きっと。でも、グアムに行ったら焼けちゃうんじゃない?」
「ええ、そうなのよ。私がグアムとか南国に行きたくないのは、それも理由の一つなの。あれだけ日差しが強いと、日焼け止めなんていくらあっても足りないもの」
「そうだよね……。でも、今回行きたくない理由はそれだけじゃないもんね?」
「ええ。治樹さんも東京にお住まいだってお聞きしてるし、東京にいれば街でバッタリ会うこともあるかもしれないでしょう? でも……、海外に行ってしまったら、帰国するまでは絶望的だわ……」
「うん……」
愛美は純也さんの連絡先を知っているから、たとえ会えなくても電話で声を聴いたり、メッセージのやり取りもできる。だからあまり「淋しい」とは思わないけれど。
珠莉は治樹さんの連絡先すらまだ知らない。妹であるさやかに訊く、という手もあったけれど、それでは彼の方が珠莉の連絡先を知らないし、たとえ身内であっても第三者を巻き込むのは珠莉も気が退けるのだろう。
「珠莉ちゃん、そんなに落ち込まないで。早めに日本に帰ってこられたら、治樹さんに会うチャンスもあるかもしれないから。ねっ?」
「……そうですわね。落ち込んでいても、何も始まりませんわね」
愛美の一言で、暗かった珠莉の表情は見る見るうちに明るさを取り戻していく。
「ところで、お肌が白いっていえば愛美さん、あなたもじゃなくて?」
「うん、そうなの。わたし、小さい頃から全然焼けなくて。元々そういう体質なのかなぁ? 去年夏も、外でいっぱい農作業とか手伝ってたのに日焼けしなかったんだよ。わたしはこんがり小麦色に日焼けする子たちが羨ましくて仕方なかったなぁ」
「まぁ、そうね。長野はあまり日差しが強い地域でもないし、あなたがお育ちになった山梨もそうでしょう? 育った環境にもよるんじゃないかしらね」
「なるほど……、そうかも」
愛美は納得した。もし生まれ育ったのが沖縄みたいな南国だったり、ビルの照り返しの強い都会だったら、もっと日焼けしやすい体質になっていたかもしれない。
「でもね、愛美さん。私たちくらいの年齢になると、あまり日焼けはしない方がよくてよ。シミやそばかすの原因になりますもの」
「そうだよね。実はわたしも、去年おんなじこと考えてたんだ」
年頃の女の子にとって――特に恋するオトメにとっては、日焼けはお肌の大敵なのだ。愛美だって珠莉だって、好きな人のためにもキレイなお肌を保ちたいのは同じ。
――二人がそんな会話をしている間に、「次は新横浜」という車内アナウンスが聞こえてきた。
「――あ、次だね。珠莉ちゃん、降りよう」
* * * *
――JR新横浜駅で成田空港に向かう珠莉と別れ、愛美は去年と同じように新幹線の車上の人になっていた。
去年はサンドイッチで昼食を済ませたけれど、今年はお財布の中身に余裕があるため、乗り換えのために降りた東京駅でちょっと高い駅弁を買って北陸新幹線の車内で食べた。
その車内で、愛美は純也さんに、スマホから一通のメッセージを送信した。
『わたしは今、新幹線で長野の千藤農園に向かってます。
純也さんはいつごろ来られそうですか? 連絡お待ちしてます☆』
* * * *
――JR長野駅の前には、一年前と同じように千藤農園の主人(名前は善三さんという)が車で迎えに来てくれていた。もちろん、助手席には多恵さんも乗っている。
「こんにちは! 今年もお世話になります」
「愛美ちゃん、こんにちは。待ってたわよ」
「よく来てくれたねぇ。もう荷物は届いてるから、天野君に部屋まで運んでもらってあるよ。――さ、乗りなさい」
「ありがとうございます。じゃあ、おジャマしまーす」
礼儀正しく挨拶をした愛美を、善三さんはニコニコしながら白いライトバンの後部座席に乗せてくれた。
「じゃあさやかちゃん、わたしたちもう行くから。部活頑張ってね☆」
愛美は横浜駅まで、珠莉と一緒に行くことになっている。
「うん、頑張るよ。どこまで進めるか分かんないけどね。……あ、愛美の恋の進展具合も教えてよ」
「……もう! さやかちゃんシュミ悪いよぉ。――分かった。ちゃんと教えるよ」
女の子同士の友情なんて、こんなものじゃないだろうか。からかわれても、やっぱり親友には恋バナを聞いてほしいものなのだ。
「ところで愛美さん。荷物はそれだけですの?」
珠莉は愛美の荷物がスーツケースとスポーツバッグ、それぞれ一つずつしかないことに首を傾げた。
一年前にはこの他に、段ボール箱三つ分の荷物がドッサリあったというのに。
「うん。大きな荷物は先に送っといたの。去年より一箱少ないけどね」
千藤農園にお世話になるのも、今年で二度目。先に荷物が届けば、向こうもあとは愛美本人の到着を待てばいいだけ、ということだ。
「そうでしたの? じゃあ、そろそろ参りましょうか」
「うん。――さやかちゃん、行ってきま~す!」
「行ってら~~! 二人とも、気をつけて。楽しんどいで!」
「「は~い☆」」
――愛美と珠莉の二人は、まず地下鉄で新横浜駅まで出た。
その車内で、愛美は多分初めて珠莉と二人、ゆっくり話す機会に恵まれた。
「そういえば、初めて会った時から思ってたけど。珠莉ちゃんって肌白いよねー」
「まぁね。私、今まで話したことありませんでしたけど、実はモデルになりたいと思ってますの。そのためにスタイル維持だけじゃなく、美白にも気を遣ってますのよ」
愛美は彼女の夢を始めて聞いた。でも、スラリと背が高く、スタイルもいい珠莉らしい夢だと思う。
「へえー、そうだったんだ。珠莉ちゃんならなれるよ、きっと。でも、グアムに行ったら焼けちゃうんじゃない?」
「ええ、そうなのよ。私がグアムとか南国に行きたくないのは、それも理由の一つなの。あれだけ日差しが強いと、日焼け止めなんていくらあっても足りないもの」
「そうだよね……。でも、今回行きたくない理由はそれだけじゃないもんね?」
「ええ。治樹さんも東京にお住まいだってお聞きしてるし、東京にいれば街でバッタリ会うこともあるかもしれないでしょう? でも……、海外に行ってしまったら、帰国するまでは絶望的だわ……」
「うん……」
愛美は純也さんの連絡先を知っているから、たとえ会えなくても電話で声を聴いたり、メッセージのやり取りもできる。だからあまり「淋しい」とは思わないけれど。
珠莉は治樹さんの連絡先すらまだ知らない。妹であるさやかに訊く、という手もあったけれど、それでは彼の方が珠莉の連絡先を知らないし、たとえ身内であっても第三者を巻き込むのは珠莉も気が退けるのだろう。
「珠莉ちゃん、そんなに落ち込まないで。早めに日本に帰ってこられたら、治樹さんに会うチャンスもあるかもしれないから。ねっ?」
「……そうですわね。落ち込んでいても、何も始まりませんわね」
愛美の一言で、暗かった珠莉の表情は見る見るうちに明るさを取り戻していく。
「ところで、お肌が白いっていえば愛美さん、あなたもじゃなくて?」
「うん、そうなの。わたし、小さい頃から全然焼けなくて。元々そういう体質なのかなぁ? 去年夏も、外でいっぱい農作業とか手伝ってたのに日焼けしなかったんだよ。わたしはこんがり小麦色に日焼けする子たちが羨ましくて仕方なかったなぁ」
「まぁ、そうね。長野はあまり日差しが強い地域でもないし、あなたがお育ちになった山梨もそうでしょう? 育った環境にもよるんじゃないかしらね」
「なるほど……、そうかも」
愛美は納得した。もし生まれ育ったのが沖縄みたいな南国だったり、ビルの照り返しの強い都会だったら、もっと日焼けしやすい体質になっていたかもしれない。
「でもね、愛美さん。私たちくらいの年齢になると、あまり日焼けはしない方がよくてよ。シミやそばかすの原因になりますもの」
「そうだよね。実はわたしも、去年おんなじこと考えてたんだ」
年頃の女の子にとって――特に恋するオトメにとっては、日焼けはお肌の大敵なのだ。愛美だって珠莉だって、好きな人のためにもキレイなお肌を保ちたいのは同じ。
――二人がそんな会話をしている間に、「次は新横浜」という車内アナウンスが聞こえてきた。
「――あ、次だね。珠莉ちゃん、降りよう」
* * * *
――JR新横浜駅で成田空港に向かう珠莉と別れ、愛美は去年と同じように新幹線の車上の人になっていた。
去年はサンドイッチで昼食を済ませたけれど、今年はお財布の中身に余裕があるため、乗り換えのために降りた東京駅でちょっと高い駅弁を買って北陸新幹線の車内で食べた。
その車内で、愛美は純也さんに、スマホから一通のメッセージを送信した。
『わたしは今、新幹線で長野の千藤農園に向かってます。
純也さんはいつごろ来られそうですか? 連絡お待ちしてます☆』
* * * *
――JR長野駅の前には、一年前と同じように千藤農園の主人(名前は善三さんという)が車で迎えに来てくれていた。もちろん、助手席には多恵さんも乗っている。
「こんにちは! 今年もお世話になります」
「愛美ちゃん、こんにちは。待ってたわよ」
「よく来てくれたねぇ。もう荷物は届いてるから、天野君に部屋まで運んでもらってあるよ。――さ、乗りなさい」
「ありがとうございます。じゃあ、おジャマしまーす」
礼儀正しく挨拶をした愛美を、善三さんはニコニコしながら白いライトバンの後部座席に乗せてくれた。



