拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~ 【改稿版】

「愛美さん、それを飲んだらお着替えなさいよ」

「うん、そうする」

 やっぱり、部屋に帰ってきてから制服のままでいるのは落ち着かない。

 ――着替え終えた愛美は、再び共有スペースの椅子に座り直した。

「部活はどうでしたの? 何かいいアイデアが浮かびまして?」

「えっとねぇ、とりあえず四作くらいのプロットが浮かんだよ。一応、全部小説として書いてみて、その中から応募する作品を選ぶつもり。今回はパソコンで原稿書くよ」

 雑誌の公募となると、どのジャンルが受賞しやすいかどうか、傾向を見極める必要があるのだ。

「そっか。じゃあ、その前に誰かに一通り読んでもらって、その人の意見とか感想も参考にした方がいいよね」

「でしたら、純也叔父さまに読んで頂いたらどうかしら? 叔父さまの批評は的確ですから。ただし、少々辛口ですけど」

「えぇ~~? それはちょっとコワいなぁ……」

 愛美はちょっと困った。自分が一生懸命書いた小説を、大好きな人からけちょんけちょんに言われるとヘコむ。

「まあ、そんなにおびえないで。よほどヒドい作品じゃなければ、叔父さまだってそんなに厳しいことはおっしゃらないと思いますわ」

「……そう? 分かった」

 自分のメンタルの弱さは十分自覚しているので、愛美はあまり自信がないながらも頷く。

(コレで全部「ボツ!」とか言われたら、わたし多分立ち直れない……。ううん、大丈夫!)

 それでも、どれか一作くらいは純也さんのお眼鏡にかなう作品があると思うので、全滅の可能性を愛美は打ち消した。

「――あ、そういえばわたし、今月に入ってからおじさまに手紙出してないや」

 前に手紙を出したのは、上村先生から奨学金の申請を勧められた時。あの時はまだ六月だった。

「今日は秘書さんからの電話もあったことだし、夏休みの予定も多分まだ伝えてないから。そろそろ書かないと」

 先月の手紙では、奨学金のことを伝えるのに精一杯だった。あの時はまだ、純也さんに電話する前だったし……。

「そうだよね。ちゃんと知らせて、おじさまを安心させてあげないとね。――珠莉、あたしたちはちょっと外そう。コンビニ行くから付き合って。あたし、洗顔フォームが切れてたの思い出したんだ」

 この寮の中には、お菓子などの食品・ドリンク類からちょっとした文房具や日用品、雑誌まで揃うコンビニもあるのだ。

「ええ? ……まあいいわ。私は特に買うものはないけど、時間潰しにはなるものね。――じゃあ愛美さん、ちょっと行ってきますわ」

「うん、行ってらっしゃい。二人とも、わざわざ気を遣わせちゃってゴメンね」

 ――二人が出ていくと、愛美は机に向かい、レターパッドを開いた。


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『拝啓、あしながおじさん。

 今日のお昼、おじさまの秘書の久留島さんからお電話を頂きました。
 久留島さんは、おじさまがわたしの奨学金のことも、大学に進むことも反対されてないとおっしゃってました。わたし、何だか信じられなくて……。
 だってわたし、おじさまは反対するものだと思ってたんです。おじさまからの学費はいらない、でも大学には行きたいなんて、わたしのワガママかもって。そんなのスジが通らないから。
 でも、おじさまはそのワガママを聞き入れて下さったってことですよね? 
 あのね、おじさま。久留島さんにもお伝えしましたけど、わたしは奨学金を受けられることになってからも、毎月のお小遣いだけは変わらずに頂くつもりでいます。これなら一応、おじさまのメンツは保てるでしょう? そしてできれば、大学に入ってからはお小遣いも増額して頂けないかと……。
 あ、そうだ。おじさま、わたし、今年の夏休みも千藤さんの農園で過ごすことに決めました。
 というのも、今年の夏には純也さんも休暇を取られて、農園に来られるそうなんです。彼と一緒に過ごせるのが楽しみで! いつごろ来られるのかはまだ分かってないんですけど、また連絡を下さるそうです。
 そして、わたしはこの夏、ある文芸誌のコンテストに挑むべく、四作の短編小説を書くことに決めました。それぞれジャンルも、文体も、世界観も違う四作です。もうプロットはできてます。
 そして四作全部書きあがったら、純也さんに読んで頂いて、どの作品を応募するべきかアドバイスを頂こうと思ってます。珠莉ちゃんが「純也叔父さまの批評は辛口だ」って言ってたので、わたしはちょっとおびえてます。でも、きっとどれか一作くらいは彼のお眼鏡にかなう作品が書けると思うので、まずは自分の文才を信じようと思います。
 珠莉ちゃんは今年の夏はグアムに行くそうですけど、本人は日本に残りたいみたい。どうも、好きな人ができたらしくて。それが誰かなんて、わたしからはお話しできませんけど。
 さやかちゃんは所属する陸上部がインターハイ予選を順調に勝ち進んでるので、今年は夏休み返上で練習。ということで寮に残ることになりました。 
 さやかちゃんはすごくガッカリしてましたけど、わたしは部活を一生懸命頑張ってるさやかちゃんが大好きです。だから、遠く離れた長野から応援しようって決めました。
 最後になりましたけど、久留島さんはおじさまのことをすごく慕ってらっしゃるみたいですね。
 彼はお電話で、おじさまのことを「ボス」ってお呼びになってました。多分ですけど、おじさまよりだいぶ年上のはずなのに。
お二人の関係が良好で、お互いに信頼しあってるんだなって、わたしにもよく分かりました。
 ものすごく長い手紙になっちゃいましたね。すみません。
 今年の夏休みも思う存分楽しんで、そして執筆も頑張って、ステキな思い出をたくさん作ってこようと思います。ではまた。

    七月十日   愛美

P.S. 奨学金の審査の結果が出たら、またおじさまにお知らせします。夏休みの間に、事務局からわたしの携帯に直接連絡が来るそうなので。             』

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