拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~ 【改稿版】

「――お~い、愛美! お待たせ~☆」

 数分後、さやかが大きな紙袋を抱えた珠莉を引き連れて、愛美たちのいるところにやって来た。

「さやかちゃん、珠莉ちゃん! ――あれ? 珠莉ちゃん、また荷物増えてない?」

「珠莉……。お前、また買ったのか」

 純也さんも、姪の荷物を見てすっかり呆れている。

「ええ。大好きなブランドの新作バッグとか靴とか、欲しいものがたくさんあったんですもの。でも、さやかさんを荷物持ちにするようなことはしませんでしたわよ?」

「いや、そこは自慢するところじゃないだろ。せめて配送頼むとかって知恵はなかったのかよ?」

 わざわざ自分で荷物を持たなくても、寮までの配送を手配すればいいのでは、と純也さんが指摘する。
 個人の小さなショップならともかく、セレクトショップなら配送サービスもあるはずだと。

 ――ところが。

「配送なんて冗談じゃありませんわ。手数料がもったいないじゃないですか」

「珠莉ちゃん……」

 彼女らしからぬ発言に、愛美も二の句が継げない。

(珠莉ちゃんお金持ちなんだから、それくらいケチらなくてもいいのに)

 と愛美は思ったけれど、お金持ちはケチと紙一重でもあるのだ。……もちろん、ほんの一部の人だけれど。

「…………あっそ」

 これ以上ツッコんでもムダだと悟ったらしい純也さんは、とうとう白旗を揚げた。

「――ねえ、珠莉ちゃん、さやかちゃん。ちょっと」

 愛美は少し離れた場所に、親友二人を手招きした。この話は、純也さんに聞かれると困る。

「何ですの?」

「うん?」

「あのね……。さっき、わたしと純也さんを二人っきりにしてくれたのって、もしかしてわたしに気を利かせてくれたの?」

 さやかは電話でそれっぽいことを言っていたけれど、珠莉も同じだったんだろうか?

「だってさやかちゃん、『ブランドものには興味ない』って言ってたよね?」

「うん、そうだよ。でなきゃ、自分が興味ないショップに付き合ってまで、別行動取らないよ」

「ええ。……まあ、純也叔父さまのためでもあったんだけど」

「えっ?」

 〝純也さんのため〟ってどういうことだろう? ――愛美は目を丸くした。

「叔父さまに頼まれていたの。『ほんのちょっとでいいから、愛美さんと二人きりで話せる時間がほしい』って」

「え……。純也さんが? そうだったんだ」

 ……知らなかった。純也さんがそのために、「苦手だ」と言っていた珠莉(めい)に頼みごとをしていたなんて。
 そして、その頼みを聞き入れた珠莉にもビックリだ。

(やっぱり純也さん、珠莉ちゃんに何か弱み握られてるんじゃ……)

 そうじゃないとしても、純也さんと珠莉の関係に何か変化があったらしいのは確かだ。同じ秘密を共有しているとか。

(……うん。そっちの方がしっくりくるかも)

 叔父と姪の関係がよくなったのなら、その考え方の方が合っている気がする。……それはさておき。 

「そういえばさっき、電話で愛美から聞いたんだけど。二人、連絡先交換したらしいよ」

「えっ、そうだったんですの? 愛美さん、よかったわねぇ」

「うん。……あれ? さっきの電話の時、珠莉ちゃんも一緒だったんじゃないの?」

 電話口のさやかの声は、興奮していたせいかけっこう大きかった。だから、側にいたなら珠莉にも聞こえていたはずなのだけれど。

「私には聞こえなかったのよ。確かに、さやかさんの側にはいたんだけど、周りに人が多かったものだから」

(ホントかなぁ、それ)

 珠莉の言ったことはウソかもしれないと、愛美は疑った。でも、聞こえなかったことにしてくれたのなら、珠莉にしては気が利く対応だったのかもしれない。

「……そうなんだ。じゃあ、そういうことにしとくね」

 何はともあれ、愛美は純也さんといつでも連絡を取り合えるようになり、親友二人にもそのことを喜んでもらえた。それだけで愛美は万々(ばんばん)(ざい)である。

「――さて。日が傾いてきたけど、みんなどうする? まだ行きたいところあるなら、付き合うけど」

 純也さんが腕時計に目を遣りながら、愛美たちに訊ねた(ちなみに、彼の腕時計はブランドものではなくスポーツウォッチである)。
 時刻はそろそろ夕方五時。今から電車に飛び乗って帰ったとしても、六時半からの夕食に間に合うかどうか……。

「あっ、じゃあクレープ食べたいです! チョコバナナのヤツ」

「わたしも!」

「私も。ヘルシーなのがいいわ」

 〝原宿といえばクレープ〟ということで、女子三人の希望が一致した。

 甘いもの好きの純也さんが、この提案に乗らないわけはなく。というか、思いっきり乗り気になった。

「実は俺も食べたかったんだ。じゃあ決まり☆ 行こうか」

「「イェ~イ!!」」

「…………いぇーい」

 愛美とさやかは大はしゃぎで、珠莉は恥ずかしいのか小声でボソッと言い、四人は竹下通りまで戻ってクレープのお店に足を運んだ。
 ここは券売機で注文するシステムのようで、各々好みの商品の券を買った。

「あたし、ばななチョコホイップ。プラス百円でドリンクつけよう」

「わたしも」

「僕も同じので」

「私はツナチーズサラダ、っと」

 ドリンクは愛美・純也さん・さやかはタピオカミルクティーをチョイスした。珠莉はドリンクなしだ。

「愛美は初タピオカだねー」

「うん!」

 山梨のド田舎にいた頃は飲んだことはもちろん、見たことすらなかったタピオカドリンク。愛美はずっと楽しみにしていたのだ。

「実は、僕も初めて」

「「えっ!?」」

 純也さんの衝撃発言に、愛美とさやかは心底驚いた。

「いや、男ひとりで買うの勇気要るんだよ」

「はぁ~、なるほど……」

 分からなくはない。女子が「()える~!」とかいって、こぞってSNSに写真をアップしているのはよく見かけるけれど。男性がそれをやっていたら、ちょっと引く……かもしれない。