「そんな! いいですよ、純也さん! コレくらい、自分で買えますから」
「そうですよ。そこまで気を遣わせちゃ悪いし」
「いいからいいから。ここは唯一の大人に花を持たせなさい♪ じゃあ、会計してくる」
そう言って、品物を受け取った彼が手帳型のスマホケースから取り出したのは、一枚の黒光りするカード――。
「ブラックカード……」
愛美は驚きのあまり、思考が止まってしまう。
ブラックカードは確か、年収が千五百万円だか二千万円だかある人にしか持てないカード。存在すること自体、都市伝説だと思っていたのに……。
「純也さんって、とんでもないお金持ちなんだね……」
今更ながら、愛美が感心すれば。
「当然でしょう? この私の親戚なんですものっ」
珠莉がなぜか、自分のことのようにふんぞり返る。……まあ、確かにその通りなんだけれど。
「ハイハイ。誰もアンタの自慢なんか聞いてないから」
すかさず、さやかから鋭いツッコミが入った。
「――はい、お待たせ。買ってきたよ」
しばらくして、会計を済ませた純也さんが、三つの小さな包みを持って、三人のもとに戻ってきた。
「一つずつラッピングしてもらってたら、時間かかっちまった。――はい、愛美ちゃん」
彼は一人ずつに手渡していき、最後に愛美にも差し出した。
「わぁ……。ありがとうございます!」
受け取った愛美は、顔を綻ばせた。これは、彼女が好きな人から初めてもらったプレゼントだ。――ただし、〝あしながおじさん〟から送られたお見舞いのフラワーボックスは別として。
「わたし、男の人からプレゼントもらうの初めてで……。ちょうど先月お誕生日だったし」
「そうだったんだ? 何日?」
「四日です」
「そっか。遅くなったけど、おめでとう。前もって知ってたら、こないだ寮に遊びに行った時、何かプレゼントを用意してたんだけどな」
純也さんが寮を訪れたのは、愛美の誕生日の後だった。
「いえいえ、そんな! わたしは、純也さんが来て下さっただけで十分嬉しかったですよ。あと、ケーキの差し入れも」
「っていうかさ、男の人からのプレゼントって初めてじゃなくない? ほら、おじさまから色々もらってるじゃん。お花とか」
「おじさまは別格だよ。だって、わたしのお父さん代わりだもん」
いくら血の繋がりがないとはいえ、親代わりの人を〝異性〟のカテゴリーに入れてはいけない。
「あー……、そっか」
その理屈にさやかが納得する一方で、珠莉は何だか複雑そうな表情を浮かべている。
この半月ほど――純也さんが寮を訪れた日から後、彼女のこんな表情を、愛美は何度も見ていた。
――四人が再び、竹下通りを散策していると……。
「――あれ? さやかじゃん! それに愛美ちゃんも。こんなとこで何してんだ?」
やたらハイテンションな、若い男性の声がした。それも、珠莉と純也さんはともかく、あとの二人にはものすごく聞き覚えのある……。
「おっ……、お兄ちゃん!」
「治樹さん! お久しぶりです」
「ようよう、お二人さん! だから、なんでここにいるんだっての。――あれ? そのコは初めて見る顔だな。さやかの友達?」
声の主はやっぱり、さやかの兄・治樹だった。
(……そういえば治樹さんも、東京で一人暮らししてるって言ってたっけ)
愛美はふと思い出す。――それにしたって、何もこんなところで純也さんと鉢合わせしなくてもいいじゃない、と思った。
(……まあ、偶然なんだろうけど)
「まあ! さやかさんのお兄さまでいらっしゃいますの? 私はさやかさんと愛美さんの友人で、辺唐院珠莉と申します」
「へえ、君が珠莉ちゃんかぁ。さやかから話は聞いてるよ。……で? そのオッサンは誰?」
「あたしたちは今日、この珠莉の叔父さんに招待されて、東京に遊びに来たの。これからミュージカル観に行って、ショッピングするんだ」
さやかはそう言いながら、右手で純也さんを差した。
「……どうも。珠莉の叔父の、辺唐院純也です」
純也さんはなぜか、ブスッとしながら治樹さんに自己紹介した。〝オッサン〟呼ばわりされたことにカチンときているらしい。
「へえ……、珠莉ちゃんの叔父さん? 歳いくつっすか?」
「来月で三十だよ。つうか誰がオッサンだ」
(純也さん、それ言っちゃったら大人げないです……)
ムキになって治樹さんに食ってかかる純也さんに、愛美は心の中でこっそりツッコんだ。
そして、治樹さんは治樹さんで、愛美がチラチラ純也さんを見ていてピンときたらしい。愛美の好きな人が、一体誰なのか。
(お願いだから治樹さん、ここで言わないで!)
愛美の想いなどお構いなしに、治樹さんと純也さんはしばし睨みあう。けれど、身長の高さと目力の強さに圧倒されてか、すぐに治樹さんの方が睨むのを諦めた。
「……すんません」
「いや、こっちこそ大人げなかったね。すまない」
とりあえず、火花バチバチの事態はすぐに収まり、さやかがまた兄に同じ質問を繰り返す。
「ところで、お兄ちゃんはなんでここにいんのよ? 住んでんのこの辺じゃなかったよね?」
「なんで、って。服買いに来たんだよ。この辺の古着屋ってさ、けっこういいのが揃ってんだ」
原宿といえば、古着店が多いことでも有名らしい。新しい服を買うよりは、古着の方が価格も安いしわりと掘り出し物があったりもして楽しのかもしれない。
「ああー、ナルホドね。だからお兄ちゃんの服、けっこう奇抜なヤツ多いんだ」
「さやか、そこは個性的って言ってほしいな」
「でも、治樹さんにはよく似合ってると思います。わたしは」
「おおっ!? 愛美ちゃんは分かってくれるんだ? さすがはオレが惚れた女の子だぜ。お前とは大違いだな」
「はぁっ!? お兄ちゃん、まだ愛美に未練あんの? 冬に秒でフラれたくせにさぁ」
「うっさいわ」
「そうですよ。そこまで気を遣わせちゃ悪いし」
「いいからいいから。ここは唯一の大人に花を持たせなさい♪ じゃあ、会計してくる」
そう言って、品物を受け取った彼が手帳型のスマホケースから取り出したのは、一枚の黒光りするカード――。
「ブラックカード……」
愛美は驚きのあまり、思考が止まってしまう。
ブラックカードは確か、年収が千五百万円だか二千万円だかある人にしか持てないカード。存在すること自体、都市伝説だと思っていたのに……。
「純也さんって、とんでもないお金持ちなんだね……」
今更ながら、愛美が感心すれば。
「当然でしょう? この私の親戚なんですものっ」
珠莉がなぜか、自分のことのようにふんぞり返る。……まあ、確かにその通りなんだけれど。
「ハイハイ。誰もアンタの自慢なんか聞いてないから」
すかさず、さやかから鋭いツッコミが入った。
「――はい、お待たせ。買ってきたよ」
しばらくして、会計を済ませた純也さんが、三つの小さな包みを持って、三人のもとに戻ってきた。
「一つずつラッピングしてもらってたら、時間かかっちまった。――はい、愛美ちゃん」
彼は一人ずつに手渡していき、最後に愛美にも差し出した。
「わぁ……。ありがとうございます!」
受け取った愛美は、顔を綻ばせた。これは、彼女が好きな人から初めてもらったプレゼントだ。――ただし、〝あしながおじさん〟から送られたお見舞いのフラワーボックスは別として。
「わたし、男の人からプレゼントもらうの初めてで……。ちょうど先月お誕生日だったし」
「そうだったんだ? 何日?」
「四日です」
「そっか。遅くなったけど、おめでとう。前もって知ってたら、こないだ寮に遊びに行った時、何かプレゼントを用意してたんだけどな」
純也さんが寮を訪れたのは、愛美の誕生日の後だった。
「いえいえ、そんな! わたしは、純也さんが来て下さっただけで十分嬉しかったですよ。あと、ケーキの差し入れも」
「っていうかさ、男の人からのプレゼントって初めてじゃなくない? ほら、おじさまから色々もらってるじゃん。お花とか」
「おじさまは別格だよ。だって、わたしのお父さん代わりだもん」
いくら血の繋がりがないとはいえ、親代わりの人を〝異性〟のカテゴリーに入れてはいけない。
「あー……、そっか」
その理屈にさやかが納得する一方で、珠莉は何だか複雑そうな表情を浮かべている。
この半月ほど――純也さんが寮を訪れた日から後、彼女のこんな表情を、愛美は何度も見ていた。
――四人が再び、竹下通りを散策していると……。
「――あれ? さやかじゃん! それに愛美ちゃんも。こんなとこで何してんだ?」
やたらハイテンションな、若い男性の声がした。それも、珠莉と純也さんはともかく、あとの二人にはものすごく聞き覚えのある……。
「おっ……、お兄ちゃん!」
「治樹さん! お久しぶりです」
「ようよう、お二人さん! だから、なんでここにいるんだっての。――あれ? そのコは初めて見る顔だな。さやかの友達?」
声の主はやっぱり、さやかの兄・治樹だった。
(……そういえば治樹さんも、東京で一人暮らししてるって言ってたっけ)
愛美はふと思い出す。――それにしたって、何もこんなところで純也さんと鉢合わせしなくてもいいじゃない、と思った。
(……まあ、偶然なんだろうけど)
「まあ! さやかさんのお兄さまでいらっしゃいますの? 私はさやかさんと愛美さんの友人で、辺唐院珠莉と申します」
「へえ、君が珠莉ちゃんかぁ。さやかから話は聞いてるよ。……で? そのオッサンは誰?」
「あたしたちは今日、この珠莉の叔父さんに招待されて、東京に遊びに来たの。これからミュージカル観に行って、ショッピングするんだ」
さやかはそう言いながら、右手で純也さんを差した。
「……どうも。珠莉の叔父の、辺唐院純也です」
純也さんはなぜか、ブスッとしながら治樹さんに自己紹介した。〝オッサン〟呼ばわりされたことにカチンときているらしい。
「へえ……、珠莉ちゃんの叔父さん? 歳いくつっすか?」
「来月で三十だよ。つうか誰がオッサンだ」
(純也さん、それ言っちゃったら大人げないです……)
ムキになって治樹さんに食ってかかる純也さんに、愛美は心の中でこっそりツッコんだ。
そして、治樹さんは治樹さんで、愛美がチラチラ純也さんを見ていてピンときたらしい。愛美の好きな人が、一体誰なのか。
(お願いだから治樹さん、ここで言わないで!)
愛美の想いなどお構いなしに、治樹さんと純也さんはしばし睨みあう。けれど、身長の高さと目力の強さに圧倒されてか、すぐに治樹さんの方が睨むのを諦めた。
「……すんません」
「いや、こっちこそ大人げなかったね。すまない」
とりあえず、火花バチバチの事態はすぐに収まり、さやかがまた兄に同じ質問を繰り返す。
「ところで、お兄ちゃんはなんでここにいんのよ? 住んでんのこの辺じゃなかったよね?」
「なんで、って。服買いに来たんだよ。この辺の古着屋ってさ、けっこういいのが揃ってんだ」
原宿といえば、古着店が多いことでも有名らしい。新しい服を買うよりは、古着の方が価格も安いしわりと掘り出し物があったりもして楽しのかもしれない。
「ああー、ナルホドね。だからお兄ちゃんの服、けっこう奇抜なヤツ多いんだ」
「さやか、そこは個性的って言ってほしいな」
「でも、治樹さんにはよく似合ってると思います。わたしは」
「おおっ!? 愛美ちゃんは分かってくれるんだ? さすがはオレが惚れた女の子だぜ。お前とは大違いだな」
「はぁっ!? お兄ちゃん、まだ愛美に未練あんの? 冬に秒でフラれたくせにさぁ」
「うっさいわ」



