「――さやかちゃん、おかえりなさい。愛美ちゃんも、よく来てくれたわねえ」
次にさやかと愛美の二人に声をかけてくれたのは、さやかの祖母・雪乃だった。
歳は七十代初めくらいで、髪は肩までの長さのロマンスグレー。物腰の柔らかそうな、おっとりした感じの女性である。
「おばあちゃん、ただいま。しばらく帰ってこられなかったけど、元気そうだね。安心した」
「相川愛美です。さやかちゃんにはいつもよくしてもらってます」
「そう? よかったわ。ウチの孫たちはみんな、いいコに育ってくれて。私も嬉しいわ」
このリビングにいる面々に一通り挨拶を済ませた頃、さやかの母・秀美がティーカップの載ったお盆を手にしてやってきた。
「愛美ちゃん、あったかい紅茶をどうぞ。ストレートでよかったかしら? お砂糖はコレね」
お盆にはシュガーポットとスプーンも載っていた。さやかの分もある。
「わあ、ありがとうございます。頂きます」
カップを受け取った愛美は、シュガースプーン二杯のお砂糖を入れて紅茶に口をつけた。紅茶は甘めが好みである。
さやかは甘さ控えめで、お砂糖は一杯だけだ。
「――あ、そうだ。明日は午後からクリスマスパーティーするから。愛美ちゃんもぜひ参加してよ」
「ああ、さやかちゃんから聞いてます。従業員さんのお子さんたちを招いて開くんですよね。もちろん、わたしも参加します」
愛美は頷く。この家に来る時の楽しみの一つだったのだ。
「そうそう。中学生以下のコたち限定なんだけどね。毎年、お兄ちゃんがサンタさんのコスプレしてプレゼント配るの。んで、あたしもトナカイコスで手伝ってるんだよ。今年は愛美にも手伝ってもらおっかな」
「わあ、楽しそう☆ わたしも手伝うよ!」
「んじゃ、愛美はサンタガールコスかな。トナカイじゃかわいそうだもんね」
「おお、いいじゃん! ぜってー可愛いとオレも思う」
兄妹が盛り上がる中、愛美は自分がミニスカサンタになった姿を想像してみる。
(わたし、小柄なんだけど。似合うのかな……? でもまあ、トナカイよりは……)
「…………そうかな? じゃあ……、それで。でもいいの? さやかちゃん、今年もトナカイだよ? たまにはミニスカサンタのカッコしてみたいとか思わない?」
「あー、いいのいいの。もう慣れたし」
(慣れたんだ……)
この兄と一緒に育ってきたら、きっとそうなるだろうと愛美も思った。
「あとね、お母さんが毎年クリスマスケーキ焼いてくれるんだ。それが超美味しいんだよねー」
「へえ、そうなんだ。それも楽しみだなあ」
クリスマスは毎年ワクワクしていた愛美だけれど、今年は友達のお家で過ごす初めてのクリスマス。いつも以上にワクワクしていた。
(この楽しい時間は、あしながおじさんが下さった最高のプレゼントかも!)
彼は十万円という大金と一緒に、友人と過ごす冬休みというこの有意義な時間もプレゼントしてくれたんだと愛美は思ったのだった。
「――愛美ちゃん。今日の晩ゴハンはハンバーグなんだけど、好き? あと、嫌いなものとか、アレルギーとかはない?」
秀美さんが愛美に訊ねる。一家の主婦として、我が子の友人が家に連泊するとなれば色々と気を遣うんだろう。
「あ、はい。ハンバーグ、大好物です。好き嫌いもアレルギーもないです。何でも食べられますよ」
施設で育ったので、好き嫌いなんて言っていられなかった。幸い、生まれつき食品アレルギーもないようだし。
「っていうか愛美とあたし、今日ハンバーグ二回目だね。お昼も食べてきたじゃん?」
「……あ。そうだった」
お昼に品川で食べたハンバーグも美味しかった。でも、家庭のお母さんハンバーグはまた別である。
「あら、そうだったの? ゴメンなさいねえ、気が利かなくて。でもね、ウチのは煮込みハンバーグだから、また違うと思うわよ?」
「お母さんの煮込みハンバーグはソースが天下一品なんだよ。愛美も気に入ると思う」
「わあ、楽しみ☆ じゃあ、わたしもお手伝いします」
お呼ばれした身とはいえ、上げ膳据え膳では申し訳ない。それに、実は料理が得意な愛美である。
「じゃ、あたしも手伝うよ」
「そうねえ。愛美ちゃんはともかく、さやかはこの家の子なんだから、手伝ってもらわなきゃね」
「……お母さーん、それ言う?」
母と娘の何気ない会話だけれど、それだけでも愛美は微笑ましく感じるのだった。
* * * *
――翌日の午後、治樹が言っていた通り、クリスマスパーティーが開催された。
とはいっても、牧村家ではスペースが限られるので、自宅から徒歩数分のところにある〈作業服のマキムラ〉の工場にある梱包スペースを借り切って、である。
この縦長の広いスペースをキレイに片付け、飾りつけし、クリスマスツリーを飾ったらクリスマスパーティーの会場の出来上がり。
「中学生以下のコ限定」とさやかが言っていたわりには、二十人近い子供たちが集まって、とても賑やかになった。
「――やあやあ、みんな。サンタのお兄さんだよ。みんないい子にしてるかね?」
そこへ、サンタクロースのコスプレをした治樹が、白い大きな袋を担いで参上した。ミニスカサンタのコスプレをした愛美と、トナカイの着ぐるみでコスプレをしたさやかも一緒である。
「お兄ちゃん……、〝サンタのお兄さん〟はないんじゃない? 子供たち、リアクションに困ってるって」
トナカイさやかから、すかさずツッコミが入る。
彼女の言う通り、子供たちは〝サンタのお兄さん〟の登場にポカーンとしている。……特に、小学校高学年から上の子たちが。
次にさやかと愛美の二人に声をかけてくれたのは、さやかの祖母・雪乃だった。
歳は七十代初めくらいで、髪は肩までの長さのロマンスグレー。物腰の柔らかそうな、おっとりした感じの女性である。
「おばあちゃん、ただいま。しばらく帰ってこられなかったけど、元気そうだね。安心した」
「相川愛美です。さやかちゃんにはいつもよくしてもらってます」
「そう? よかったわ。ウチの孫たちはみんな、いいコに育ってくれて。私も嬉しいわ」
このリビングにいる面々に一通り挨拶を済ませた頃、さやかの母・秀美がティーカップの載ったお盆を手にしてやってきた。
「愛美ちゃん、あったかい紅茶をどうぞ。ストレートでよかったかしら? お砂糖はコレね」
お盆にはシュガーポットとスプーンも載っていた。さやかの分もある。
「わあ、ありがとうございます。頂きます」
カップを受け取った愛美は、シュガースプーン二杯のお砂糖を入れて紅茶に口をつけた。紅茶は甘めが好みである。
さやかは甘さ控えめで、お砂糖は一杯だけだ。
「――あ、そうだ。明日は午後からクリスマスパーティーするから。愛美ちゃんもぜひ参加してよ」
「ああ、さやかちゃんから聞いてます。従業員さんのお子さんたちを招いて開くんですよね。もちろん、わたしも参加します」
愛美は頷く。この家に来る時の楽しみの一つだったのだ。
「そうそう。中学生以下のコたち限定なんだけどね。毎年、お兄ちゃんがサンタさんのコスプレしてプレゼント配るの。んで、あたしもトナカイコスで手伝ってるんだよ。今年は愛美にも手伝ってもらおっかな」
「わあ、楽しそう☆ わたしも手伝うよ!」
「んじゃ、愛美はサンタガールコスかな。トナカイじゃかわいそうだもんね」
「おお、いいじゃん! ぜってー可愛いとオレも思う」
兄妹が盛り上がる中、愛美は自分がミニスカサンタになった姿を想像してみる。
(わたし、小柄なんだけど。似合うのかな……? でもまあ、トナカイよりは……)
「…………そうかな? じゃあ……、それで。でもいいの? さやかちゃん、今年もトナカイだよ? たまにはミニスカサンタのカッコしてみたいとか思わない?」
「あー、いいのいいの。もう慣れたし」
(慣れたんだ……)
この兄と一緒に育ってきたら、きっとそうなるだろうと愛美も思った。
「あとね、お母さんが毎年クリスマスケーキ焼いてくれるんだ。それが超美味しいんだよねー」
「へえ、そうなんだ。それも楽しみだなあ」
クリスマスは毎年ワクワクしていた愛美だけれど、今年は友達のお家で過ごす初めてのクリスマス。いつも以上にワクワクしていた。
(この楽しい時間は、あしながおじさんが下さった最高のプレゼントかも!)
彼は十万円という大金と一緒に、友人と過ごす冬休みというこの有意義な時間もプレゼントしてくれたんだと愛美は思ったのだった。
「――愛美ちゃん。今日の晩ゴハンはハンバーグなんだけど、好き? あと、嫌いなものとか、アレルギーとかはない?」
秀美さんが愛美に訊ねる。一家の主婦として、我が子の友人が家に連泊するとなれば色々と気を遣うんだろう。
「あ、はい。ハンバーグ、大好物です。好き嫌いもアレルギーもないです。何でも食べられますよ」
施設で育ったので、好き嫌いなんて言っていられなかった。幸い、生まれつき食品アレルギーもないようだし。
「っていうか愛美とあたし、今日ハンバーグ二回目だね。お昼も食べてきたじゃん?」
「……あ。そうだった」
お昼に品川で食べたハンバーグも美味しかった。でも、家庭のお母さんハンバーグはまた別である。
「あら、そうだったの? ゴメンなさいねえ、気が利かなくて。でもね、ウチのは煮込みハンバーグだから、また違うと思うわよ?」
「お母さんの煮込みハンバーグはソースが天下一品なんだよ。愛美も気に入ると思う」
「わあ、楽しみ☆ じゃあ、わたしもお手伝いします」
お呼ばれした身とはいえ、上げ膳据え膳では申し訳ない。それに、実は料理が得意な愛美である。
「じゃ、あたしも手伝うよ」
「そうねえ。愛美ちゃんはともかく、さやかはこの家の子なんだから、手伝ってもらわなきゃね」
「……お母さーん、それ言う?」
母と娘の何気ない会話だけれど、それだけでも愛美は微笑ましく感じるのだった。
* * * *
――翌日の午後、治樹が言っていた通り、クリスマスパーティーが開催された。
とはいっても、牧村家ではスペースが限られるので、自宅から徒歩数分のところにある〈作業服のマキムラ〉の工場にある梱包スペースを借り切って、である。
この縦長の広いスペースをキレイに片付け、飾りつけし、クリスマスツリーを飾ったらクリスマスパーティーの会場の出来上がり。
「中学生以下のコ限定」とさやかが言っていたわりには、二十人近い子供たちが集まって、とても賑やかになった。
「――やあやあ、みんな。サンタのお兄さんだよ。みんないい子にしてるかね?」
そこへ、サンタクロースのコスプレをした治樹が、白い大きな袋を担いで参上した。ミニスカサンタのコスプレをした愛美と、トナカイの着ぐるみでコスプレをしたさやかも一緒である。
「お兄ちゃん……、〝サンタのお兄さん〟はないんじゃない? 子供たち、リアクションに困ってるって」
トナカイさやかから、すかさずツッコミが入る。
彼女の言う通り、子供たちは〝サンタのお兄さん〟の登場にポカーンとしている。……特に、小学校高学年から上の子たちが。



