「……なんか、よく分かんないけど。〝あしながおじさん〟に援助してもらえなかったら進学できなかったっていうのは、ジュディもアンタもおんなじじゃん? だから、アンタが『恵まれてる』って思えるのはおじさまのおかげなんじゃないの?」
「…………あ、そっか。そうだよね」
自分とジュディの境遇を重ねるなんておこがましい、と思っていた愛美は、さやかの言葉にハッとさせられた。
「――あとね、洋服とか靴とかも増えたの。先々月のお小遣いで買いまくっちゃって。……で、金欠に」
愛美はえへへ、と笑った。
横浜といえば「オシャレの街」である。可愛い洋服や靴、バッグなどのショップも多い。
山梨時代にはこんなにオシャレなショップに入ったことがなかった彼女は、すっかりテンションが上がってしまって思わず爆買いしてしまったのだ。
そして、こういう服や靴はたいてい値が張る。本を買い漁った分の金額も合わせると、三万円以上があっという間に消えてしまったのだ。
「アンタ、買いすぎだよ。服とか買うなら、もっと安く買えるお店あるんだし。ファストブランドとかさ」
「へえ……、そうなの? じゃあ、次からそうしてみる」
――話し込んでいると、荷作りがちっとも進まない。
「ねえねえ愛美。荷物、一ヶ月分でしょ? スーツケース一個で入るの?」
「う~ん、どうだろ? 一応、スポーツバッグもあるけど」
入学して三ヶ月でここまで増えてしまった洋服類と本を前に、愛美は唸った。
もちろん、全部持っていくわけではないけれど。一ヶ月分となると、荷物も相当な量になるはずだ。本はお気に入りの分だけ持っていくとして、服はどれだけ詰めたらいいのか愛美には目安が分からない。
「じゃあさ、スーツケースとスポーツバッグに入らない分は箱に入れよう。あたしと珠莉とでいらない段ボール箱もらってくるから。――珠莉、晴美さんのとこ行くよ」
「ええ!? どうして私まで――」
「あたし一人じゃムリに決まってんでしょ!? アンタもちょっとは手伝いなよ!」
手伝わされることが不満そうな珠莉を、さやかがピシャリと一喝した。
「…………分かりましたわよ。手伝えばいいんでしょう、手伝えばっ」
プライドの高いお嬢さまも、さやかにかかれば形無しである。渋々だけれど、彼女についていった。
――数分後。さやかが二つ、珠莉が一つ段ボール箱を抱えて愛美の部屋に戻ってきた。
「愛美、お待たせ! これだけあったら足りるでしょ」
「まったく、感謝してほしいものですわ。この私に、こんな手伝いをさせたんですから」
(珠莉ちゃんってば! 〝手伝い〟ったって、段ボール箱一コ運んできただけじゃん)
珠莉の態度は恩着せがましく、愛美もさすがにカチンとはきたけれど。ここは素直に感謝すべきだろうと大人の対応をして見せた。
「ありがと、二人とも。じゃあ、荷作り始めるね。あとはわたし一人でできるから」
二人も荷作りやら準備やらがあるだろうし、これ以上手伝わせるのは申し訳ない。……特に、珠莉にこれ以上文句を言われるのはたまらない。
「そっか、分かった。んじゃ、あたしたちはこれで」
さやかと珠莉が部屋を出ていくと、愛美は早速荷作りにかかるのかと思いきや。
(おじさまに、手紙書こうかな)
ふとそう考えた。とりあえず、期末テストが無事に終わったことと、夏休みの準備を始めたことを報告しようと思ったのだ。
いつもは勉強机の上で書くのだけれど、今日はピンク色の座卓の上にレターパッドを広げ、ペンを取った。
****
『拝啓、あしながおじさん。
お元気ですか? わたしは今日も元気です。
一学期の期末テスト、無事に終わりました。わたしは今回も学年で十位以内に入ることができましたよ。喜んでくれるといいな。
もうすぐ楽しみな夏休み。しかも、高原の農園で過ごす一ヶ月間! すごくワクワクしてます。
畑や田んぼは山梨の施設にいた頃、毎日のように見てきましたけど。実際に農場で生活するのは初めてです。すごく楽しそう!
この夏はのびのび過ごして構わないんですよね? 誰に遠慮することなく?
おじさまだって、わざわざわたしの生活態度を千藤さんご夫妻に監督させたりしないでしょう? だって、わたしはもう高校生なんだから!
では、おじさま。これから荷作りがあるので、これで失礼します。
夏休み、思いっきり楽しんで、いろいろ学んできますね。 かしこ
七月十七日 夏休み前でワクワクしている愛美』
****
――その後、無事に荷作りも完了し。それから四日後。
「じゃあねー、愛美! また二学期に! 夏休み、楽しんでおいでよ!」
寮に居残る生徒以外はみんな、それぞれの行き先へと向かって校門を出ていく。
さやかは学校の最寄り駅までは愛美と一緒だったけれど、駅からは行き先が違うのでそこで別れた。――ちなみに、珠莉は今ごろ、とっくに成田空港に着いているだろう。実家所有の黒塗りリムジンが迎えに来ていたから。
「うん! ありがと! さやかちゃんもいい夏休み送ってね!」
「サンキュ! 夏の間にメールかメッセージ送るよ」
「うん、楽しみにしてる! じゃあ、バイバ~イ!」
――さやかは埼玉方面に向かうホームへ。愛美はここから地下鉄で新横浜まで出る。そこから東京まで出て、そして――。
「東京駅からは、北陸新幹線か。おじさま、新幹線の切符まで送ってくれてる」
新幹線に乗るまでの交通費はお小遣いで何とかなるけれど、新幹線の切符代はさすがに高い。高校生が自腹を切るのはかなり痛い。
「…………あ、そっか。そうだよね」
自分とジュディの境遇を重ねるなんておこがましい、と思っていた愛美は、さやかの言葉にハッとさせられた。
「――あとね、洋服とか靴とかも増えたの。先々月のお小遣いで買いまくっちゃって。……で、金欠に」
愛美はえへへ、と笑った。
横浜といえば「オシャレの街」である。可愛い洋服や靴、バッグなどのショップも多い。
山梨時代にはこんなにオシャレなショップに入ったことがなかった彼女は、すっかりテンションが上がってしまって思わず爆買いしてしまったのだ。
そして、こういう服や靴はたいてい値が張る。本を買い漁った分の金額も合わせると、三万円以上があっという間に消えてしまったのだ。
「アンタ、買いすぎだよ。服とか買うなら、もっと安く買えるお店あるんだし。ファストブランドとかさ」
「へえ……、そうなの? じゃあ、次からそうしてみる」
――話し込んでいると、荷作りがちっとも進まない。
「ねえねえ愛美。荷物、一ヶ月分でしょ? スーツケース一個で入るの?」
「う~ん、どうだろ? 一応、スポーツバッグもあるけど」
入学して三ヶ月でここまで増えてしまった洋服類と本を前に、愛美は唸った。
もちろん、全部持っていくわけではないけれど。一ヶ月分となると、荷物も相当な量になるはずだ。本はお気に入りの分だけ持っていくとして、服はどれだけ詰めたらいいのか愛美には目安が分からない。
「じゃあさ、スーツケースとスポーツバッグに入らない分は箱に入れよう。あたしと珠莉とでいらない段ボール箱もらってくるから。――珠莉、晴美さんのとこ行くよ」
「ええ!? どうして私まで――」
「あたし一人じゃムリに決まってんでしょ!? アンタもちょっとは手伝いなよ!」
手伝わされることが不満そうな珠莉を、さやかがピシャリと一喝した。
「…………分かりましたわよ。手伝えばいいんでしょう、手伝えばっ」
プライドの高いお嬢さまも、さやかにかかれば形無しである。渋々だけれど、彼女についていった。
――数分後。さやかが二つ、珠莉が一つ段ボール箱を抱えて愛美の部屋に戻ってきた。
「愛美、お待たせ! これだけあったら足りるでしょ」
「まったく、感謝してほしいものですわ。この私に、こんな手伝いをさせたんですから」
(珠莉ちゃんってば! 〝手伝い〟ったって、段ボール箱一コ運んできただけじゃん)
珠莉の態度は恩着せがましく、愛美もさすがにカチンとはきたけれど。ここは素直に感謝すべきだろうと大人の対応をして見せた。
「ありがと、二人とも。じゃあ、荷作り始めるね。あとはわたし一人でできるから」
二人も荷作りやら準備やらがあるだろうし、これ以上手伝わせるのは申し訳ない。……特に、珠莉にこれ以上文句を言われるのはたまらない。
「そっか、分かった。んじゃ、あたしたちはこれで」
さやかと珠莉が部屋を出ていくと、愛美は早速荷作りにかかるのかと思いきや。
(おじさまに、手紙書こうかな)
ふとそう考えた。とりあえず、期末テストが無事に終わったことと、夏休みの準備を始めたことを報告しようと思ったのだ。
いつもは勉強机の上で書くのだけれど、今日はピンク色の座卓の上にレターパッドを広げ、ペンを取った。
****
『拝啓、あしながおじさん。
お元気ですか? わたしは今日も元気です。
一学期の期末テスト、無事に終わりました。わたしは今回も学年で十位以内に入ることができましたよ。喜んでくれるといいな。
もうすぐ楽しみな夏休み。しかも、高原の農園で過ごす一ヶ月間! すごくワクワクしてます。
畑や田んぼは山梨の施設にいた頃、毎日のように見てきましたけど。実際に農場で生活するのは初めてです。すごく楽しそう!
この夏はのびのび過ごして構わないんですよね? 誰に遠慮することなく?
おじさまだって、わざわざわたしの生活態度を千藤さんご夫妻に監督させたりしないでしょう? だって、わたしはもう高校生なんだから!
では、おじさま。これから荷作りがあるので、これで失礼します。
夏休み、思いっきり楽しんで、いろいろ学んできますね。 かしこ
七月十七日 夏休み前でワクワクしている愛美』
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――その後、無事に荷作りも完了し。それから四日後。
「じゃあねー、愛美! また二学期に! 夏休み、楽しんでおいでよ!」
寮に居残る生徒以外はみんな、それぞれの行き先へと向かって校門を出ていく。
さやかは学校の最寄り駅までは愛美と一緒だったけれど、駅からは行き先が違うのでそこで別れた。――ちなみに、珠莉は今ごろ、とっくに成田空港に着いているだろう。実家所有の黒塗りリムジンが迎えに来ていたから。
「うん! ありがと! さやかちゃんもいい夏休み送ってね!」
「サンキュ! 夏の間にメールかメッセージ送るよ」
「うん、楽しみにしてる! じゃあ、バイバ~イ!」
――さやかは埼玉方面に向かうホームへ。愛美はここから地下鉄で新横浜まで出る。そこから東京まで出て、そして――。
「東京駅からは、北陸新幹線か。おじさま、新幹線の切符まで送ってくれてる」
新幹線に乗るまでの交通費はお小遣いで何とかなるけれど、新幹線の切符代はさすがに高い。高校生が自腹を切るのはかなり痛い。



