拝啓、あしながおじさん。 ~令和日本のジュディ・アボットより~ 【改稿版】


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『拝啓、あしながおじさんの純也さん。

 ホントは「純也さん」だけ書こうと思ったけど、やっぱりあなたはわたしにとってずっと〝あしながおじさん〟なのでこういう書き方にしました。
 そして、メッセージでもいいかなと思ったけど、長くなりそうなので手紙を書くことにしました。

 昨夜はよく眠れましたか? わたしはあまりにも幸せすぎて、胸がいっぱいでなかなか寝つけなかった。今でもあれは夢だったんじゃないかって思ってるくらい。
 女の子が苦手だった純也さんがどうしてわたしの保護者になってくれたのか、昨日やっと分かったよ。あなたはずっと、あなたにとっての〝ジュディ〟になりそうな女の子、自分が信用するに値する女の子に出会えるのを待ってたんだって。それがわたしだったってことだよね?
 わたしがあなたのことを「辺唐院家の御曹司」としてじゃなくて、一人の人間として、一人の男性としての辺唐院純也さんを好きになったって聞いて、嬉しかったんじゃないかな。だって、わたしには打算なんて一ミリもないし、あなたからの愛に対して何の見返りも求めたりしないから。これからもずっと、わたしはあなたに無償の愛を注いでいくつもりだよ。だから安心してね!

 昨日、初めてあなたの住むタワマンへ行った時、わたしはあまりの立派さに圧倒されて、なかなかエントランスまで踏み入れる勇気が出なかったの。それで、しばらく周りをウロウロしてたら久留島さんに呼び止められて。「失礼ですが、相川愛美様でいらっしゃいますでしょうか?」って。わたし、あのお声だけで彼が久留島さんだってすぐに分かったよ。いつか電話を下さった時の、あの優しい声だったから。
 久留島さんとはエレベーターの中で色んな話をしたけど、真剣な顔になってこう言われたの。「純也様はこのごろ大変多忙でございまして、本日もその中でやっとお時間を作られたのでございます。ですので、あまり長居されないとこちらとしても助かるのでございますが……」って。あの人、ホントに純也さんのことをお父さんみたいに心配してくれてるんだなぁって、わたしも感動しちゃった。
 もちろんわたしも寮の門限があるし、長居するつもりなんてなかったから「もちろんです」って答えたよ。
 実際に入ったあなたの部屋は、いかにも男の人のひとり暮らしの住まいって感じだった。広い間取りだけどインテリアはシンプルで、すっきり片付いてて、でもちゃんとそれなりには生活感もあって。でも、わたしにはあの部屋であなたと一緒に生活する自分の姿が簡単に想像できたの。「ああ、これがこの人と結婚するってことなんだな」って。今まで施設とか寮で共同生活をした記憶しかなくて、普通の家庭での生活なんてお休みの間の一時的なものしか経験したことなかったのに、ヘンだよね?
 そういえば、昨日わたしが着ていった服、あなたに告白した時のと同じコーデだって気づいてた? あれ以来、わたしの夏のお気に入りになったんだよ。一昨日の夜から何を着ていこうか迷ってたんだけど、「やっぱりこれしかない!」って思って、あのコーデに決めたの。でも、純也さんは一言もコメントしてくれなかったよね……。何か悲しい……グスン。
 それはさておき、純也さんはやっぱりわたしからの手紙、全部取っておいてくれてたんだね。しかも、さやかちゃんが言ってたとおりにファイルしてた(笑)。中には処分しておいてほしかった手紙もあったけど、嬉しかったです。あの手紙が全部、あなたの宝物になってるんだと思うと……。