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『拝啓、純也さん。
純也さんからの直筆の手紙、ビックリしたけど嬉しかったです。ありがとう。
純也さんは純也さんで悩んでたんだね。わたしもそうじゃないかって思ってたよ。だから、園長先生に言ったんだよね? 自分が援助してることを、わたしが気づいてるかもしれないって。
でもね、純也さん。心配しないで。もしあなたがもっと早く本当のことを打ち明けてくれてたとしても、わたしの気持ちがあなたから離れることはなかったから。あなたに幻滅することなんてあり得ない。だってあなたは、わたしの文才を早い段階から認めてくれてて。ずっと背中を押し続けてくれてた人なんだから。そして、わたしを見捨てないでいてくれた唯一の理事さんだったから。
わたし、ずっと気になってたことがあるの。あなたは女性不信で女の子が苦手だったはずなのに、どうしてわたしに手を差し伸べてくれたのかな、って。 でね、わたしなりに理由を考えてみたの。
純也さん、あなたはずっと家族からの愛を感じられずに育ってきたんだよね。だから、わかば園のみんなのことを「家族みたいだ」って作文に書けたわたしが羨ましくなったのかな、って。
わたしは両親がどうして死んじゃったのか、つい最近まで理由を知らなかったから、わたしにとって〝家族〟と呼べるのはあの施設のみんなしかいなかったの。でも確かに、わたしはあの施設で園長先生や他の先生たち、そしてお兄さんお姉さん、弟や妹たちから大事に思われてきたから、「家族ってこんな感じなのかな」って自然と思うことができたの。あんなにいい施設で暮らすことができたわたしはすごく恵まれてると思う。
……話が逸れちゃったね。ごめんなさい。純也さんの言うとおり、わたしにはまだ純也さんに話してないことがあります。それこそが、プロポーズを断っちゃった本当の理由です。
でも、手紙に書くとうまく伝えられる自信がないので、直接会って話したいです。来週の土曜日、夕方四時ごろ、純也さんのマンションまで行きます。東京に行くのはもう三回目だし、スマホのナビもあるから道に迷う心配はありません。もう小さな子供じゃないんだから。
その時には、純也さんからも話してほしいな。わたしを援助しようと思ってくれた本当の理由、一緒に答え合わせをしようよ。
純也さん、お仕事が忙しいと思うけど、体調には気をつけてね。それじゃまた、来週の土曜日に……。 かしこ
六月十六日 愛美
P.S. 今、ふと気になったんだけど。純也さんのマンションってオートロックついてる? わたし、インターフォンって苦手なの。
あと、コンシェルジュさんも苦手で……。何を話せばいいのかな?』
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――その手紙が届いたと思われる二日後、愛美のスマホに純也さんからメッセージが届いた。
『手紙、受け取ったよ。
インターフォンとコンシェルジュが苦手なんだね? だったら大丈夫。
当日は、エントランスまで秘書の久留島を迎えに行かせるから』
「――久留島さんが迎えに来てくれるんだ……」
〝あしながおじさん〟=純也さんの秘書である久留島さんは、前に電話で声だけは聞いたことがあったけれど、実際に会うのは初めてだ。声の感じからして優しそうな初老の男性だと思うけれど、どんな人物なんだろう? ――愛美はそれも楽しみになった。



